ニチジョウノサカイ ~in other side~ [2.2.7]
「それは話を最後まで聞いてないそっちが悪い」
指を那凪の額から外して背を起こすと、那凪を見下ろす形でポケットに手を入れる。
「あっち関連の事はこれから徐々に教えていってやるから、それまでの間品物の売買を俺に任せろ。 心配しなくても収入は全部そっちに流す」
そう、これこそが緋嵩の目的だった。
世界の暗部に染まりきっていない彼らは、手に入れたそちら側の品物を売買することで資金源の一部としていた。 しかもどういった用途のものかも知らず、骨董品として、だ。
ロクに繋がりも無く、相手を見抜く目も持たない彼らがそんな事をしていれば、いずれその危険性を知るものに排除されかねない。 下手をすれば、他の組織間でのトラブルの可能性だってあるのだ。
禍鏡意外にも厄介事が増えるなど、誰にとっても良い筈が無かった。
それを防ぐために緋嵩が考えたのが、先の提案だ。
馬鹿正直に危険を訴えるよりも多少の不安や疑心暗鬼を与えた方が人は動きやすくなるものだと知っているが故の、確実性のみを求めた方法だった。
現に、那凪達も納得の意を示している。
「あ、うん。 そういうことなら、仕方ないよね、うん」
「よろしくお願いします」
「僕も同意するよ、君もだろ、轟」
「ああ、確かに、緋嵩に任せた方がよさそうだな」
いつの間にか那凪との話に耳を傾けていた三人からも、次々に声が上がった。
もし、危険だから自分に渡せ、等と言ったなら、決してこう簡単にまとまりはしなかっただろう。 その点で言えば、彼のやり方は綺麗ではないが、彼等の安全を守る最適の手段だったとも評価できるかもしれない。
それから話は、どうやって緋嵩に売買を任せるかに移った。
とりあえず彼女達の勉強も兼ねて臨時のバイトとして雇われる事に決まると、働く時間帯と基本的な注意事項の確認などが行われ、それも一段落した今は、全員で御国の入れた麦茶を啜っている所だった。
「さて、そろそろ俺は行くぞ」
手元の麦茶を飲み干した緋嵩が立ち上がり出口を向いた瞬間、那凪から待ったが掛けられる。
「あ、ねえ!」
「ん?」
何気なく首から上だけで振り返ると、随分と楽しげな笑みを浮かべる四人の姿が映った。
「今日さ、よかったら皆で飲みに行かない? ほら、歓迎会ってやつ」
どこか浮き足立ったような彼らの雰囲気に納得した緋嵩だったが、生憎と返ってきた返事はつれないもの。
「悪いな、今日はもう休ませてもらう」
「え~何よ、ノリ悪いなぁ」
途端、あからさまに残念そうな顔でしょげる四人を見て、緋嵩の顔に苦笑が浮かぶ。
「今日は無理だが、明日ならいいぞ。 それじゃ駄目か?」
緋嵩の苦笑を、どうやら断ったことに対する妥協と見たらしく、那凪達の顔に再び楽しげな雰囲気が流れ出す。
「よし、明日ね。 ふふふ、覚悟しなさい」
「へえ、張り切ってるね店長」
高原の言葉に、那凪はテンションも高く、得意げに胸を張った。
「当然。 明日は飲むわよ~」
「おっ、久々にアレやるか?」
「えっ!? アレですか……」
調子よく話す那凪と轟に、うわぁ、と残念そうな目で緋嵩を見る御国。
彼女の様子が気になったのか、緋嵩が訝しげな顔で御国に話しかける。
「なあ、アレって?」
「なんていうか、その、頑張って下さいね緋嵩さん」
具体的には何も言わず言葉を濁した御国に、疑問符を頭に浮かべたような表情で緋嵩が首をかしげた。
「? ああ」
とりあえず濁したということは深く問い詰めても仕方ないとばかりに、あっさり納得した緋嵩は、今度こそ別れを告げて部屋を出る。
「じゃあまたな」
「ああ、またな緋嵩」
「総一、明日逃げるんじゃないわよ」
「またね」
「さようなら」
襖を閉める瞬間、ふっと、緋嵩が何かを思い出したような表情になった。
「ああ、そうそう。 明日の夜、禍鏡が出るぞ」
不意に、彼の口から飛び出した言葉。
まるでなんでもないことを伝えるような気安い雰囲気で告げられた情報に、残された四人も軽い返事だけで返す、
「「「「……はあ!?」」」」
訳はなかった。
さて、これにて第二部は終了とあいなりました。
次回からのカオスポットは、第三部(殲滅編)です!
いよいよバトル、これからバトル、待ちに待ったこの瞬間。
お楽しみに(^ロ^)/