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ニチジョウノサカイ ~in other side~ [2.2.4]

「よし、みんな集まったわね!」

 店の奥。 既に集会場と化しているその座敷のど真ん中で、満足そうに両腕を組んだ那凪が意気揚々と声を張り上げた。

 彼女の視線の先、座敷の側面にある柱の一つには、背をもたれさせてポケットに手を突っ込んでいる緋嵩の姿がある。

 また、仁王立ちしている彼女の周りには、胡坐をかいて興味深げな目で緋嵩を見る轟に、正座で麦茶をすする高原と、横に足を崩した格好できょとんとした顔を浮かべて那凪を見る御国の三人が揃っていた。

「あのお、何で私たちまで集められたんでしょうか?」

 純粋な疑問が御国の口から零れ落ちる。

「僕も気になるね。 今日は非番だったからさきちゃんと遊ぶ約束があったんだけどな」

 グラスを置いた高原からも非難めいた声が上がった。

「ああ、それね。 なんかひだちゃんが皆も呼べって言うからさ」

「ちょっと待て。 色々省略しすぎな上になんだその呼び名は」

 さらっと言ってのけた那凪だったが、そこは聞き逃さないとばかりにしっかりと緋嵩が異を唱える。

「いいじゃない別に。 仲間ならあだ名の一つぐらいあっておかしくないでしょ」

 特に悩んだ様子も無く言ってのける那凪に、どう言い返したものかと緋嵩が困ったように息を吐いた。

 こういったものは悪気を含んだものではなく純粋なものほど性質が悪い。

「あのな……」

「まあまあ、良いじゃないですか」

 なにやら物言いたげな緋嵩を、苦笑いしながら御国がなだめる。

「そうそう、店長のは今に始まったわけでもないしね」

「だな」

 他の二人の表情も、彼女とさして変わらないもの。

 つまり、「言っても無駄だ」ということらしい。

「はあ、まあいいけどな」

 うなだれる緋嵩に微笑ましく苦笑を送る三人を見て、那凪が微妙な表情を浮かべて呟いた。

「なんか、私馬鹿にされてる?」

 生憎その質問に答える声は無く、代わりに高原が何かに気が付いたような素振りを見せた。

「そう言えばさ、まだ彼の名前聞いてないよね」

 唐突に投げかけられた質問に、他の三人も高原と同じような表情に変わる。

「む、そういえばそうだな」

「さなちゃんが名前呼んでたから気付かなかったけど、言われてみれば」

「私は、教えてもらいましたけど、そういえば店長達からは緋嵩さんの名前聞きませんでしたね」

 三者三様に同意を返すと、合図したわけでもなく四人の視線が一箇所に注がれた。 当然ながらその先には、身体を斜めに保ったままの緋嵩が。

 彼の方はというと、先ほどのうなだれた雰囲気も収まり、心なしかその顔は些細な忘れ物をしたようなものに変わっていた

「ああ、そういやそうだったか。 緋嵩総一だ、よろしく」

「え、それだけ!?」

 どうやら本当に内面の方にも大した動揺は無かったようだ。

 緋嵩の口から出たのは、いかにも彼らしい台詞。 注目を浴びていることなど気にも掛けていない、どうでもよさそうな声で述べられた簡素な自己紹介だけだった。

 思わずそのあっけなさに那凪が声に出して驚きを示してしまうも、相手にはそれに応える姿勢などまるで無い。

「十分だろ」

「不十分過ぎるわよっ」

 突然の大声にもさして驚いた様子は見せず軽い調子で返されたあっけない終了宣言に、間髪入れず那凪が噛み付いた。 ずずいと緋嵩に詰め寄って、これまで溜まりに溜まった文句を羅列するも、対する彼の方はそっぽを向いて聞き流すのみ。

「ま、まあまあ」

 そんな、一方的にヒートアップして暴走危険を臭わせる雰囲気が那凪から流れ始めた頃、再び御国の方から諌める声が上がった。

 二度目だけあって、その苦笑の色は微妙に濃い。

「ねえ、そろそろ呼ばれた理由が知りたいんだけど」

 助け舟が出たのは、意外にもこういった揉め事が一番好きそうな高原から。

 大した声量ではない、どこか拗ねた色合いをみせる声が部屋に居る全員の耳を通った。

 いつもの軽薄そうな笑顔をつんとしたものに変えて尋ねたその様子は自身の休暇が潰れたことに対しての不満が見え隠れしているようにも見えるが、単に遅々として話が進まない子供のけんかに嫌気がさしただけのようにも見える。

 どちらにせよ、高原の一言に反応して明後日の方向を向いていた緋嵩が話を進めようと向き直ったのは確かだ。

「なあ、この中で付喪神を知ってる奴、居るか?」

 ようやく緋嵩の口から出た本題、その内容に、彼以外の全員が訝しげな顔になった。

 具体的には、

「はぁ? 何言ってんのあんた?」

 今この瞬間、見事に那凪が声に出してくれた台詞のような顔だ。

 付喪神とは、つい昨日那凪達が禍鏡の説明をするときに使った単語であり、その性質を知らないはずが無いのである。

「知ってるも何も、昨日店長が言ってた通り禍鏡の核になってる妖怪のことですよね?」

 分かり易くやや説明めいた口調で確認する御国に向かって、緋嵩の口が開く。

「会ったことは?」

「え?」

 きょとん、とした顔で御国が疑問符の付いた一文字だけを返す。

 少しして理解が追いついたのか、反射的に聞き返した彼女の顔が次第に何かを考えるようなものへと変わった。 そのうち顎に指先を当てだし、記憶を漁るようなものになったかと思えば、最後には腕を組んで眉間にしわが。

 唸る御国から視線を外して周りへ向けると、他の面々も似たような表情を浮かべていた。

「言われてみれば、普通に妖怪の事とか口にしてる割に、見たこと無いな、俺達」

 御国と同じように腕を組んだ轟から今初めて気が付いたとばかりに声が漏れる。

 轟の言葉に反応して、いつの間にか緋嵩から意識を外した那凪から彼女達の現状を示す一言が発せられた。

「そもそもさ、そういうのってもう皆死んじゃったんじゃないの? だから禍鏡がこんなに居るんでしょ?」

 会った事は愚か、今現在居ることさえも定かではないという彼女の言葉に同意する面々。

「はぁ、やっぱりな」

 そんな彼等の姿にガックリと肩を落として呟いた緋嵩の一言は、予想通りという確信と、僅かな呆れが混じったものだった。 

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