ツカノマノクビキ ~a slight contract~ [2.1.12]
「……はあ」
フォーチュンテラが微笑のままに細められた目を怪しく輝かしていた時、別の場所では、どこか疲れたようなため息が落とされている所だった。
そこは何処にでもある、建物と建物の狭間。
中身のこぼれたゴミ箱に、無駄に音ばかり大きい旧式の換気扇ががたがたを今にも壊れそうに身を震わせている。 外には眩しいほどに人工の光が輝いているというのに、この場所には殆ど届いていない。
薄闇の中で遠くから響いてくる街の音が、まるで人間の世界から隔離されたような物悲しさを与えるようだった。
そんな場所で、一方の建物の壁に背をもたれさせながら、気だるげに視線を彷徨わせている人影が一つ。
「あいつがその気になるとろくな事にならないからな。 変に興味を持たなきゃいいが」
ポケットに手を突っ込んだまま誰に言うでもなくそう愚痴ったのは、つい数分前までフォーチュンテラと話していたはずの緋嵩である。
と言うのも、彼女の作り出した正真正銘の鏡面結界から抜け出してみた所、目の前に広がったのがこの薄汚れた路地裏の景色だったのだ。
目撃者の有無についての配慮と考えれば、こんな場所に現れるようにされていたとしてもおかしくは無い。
難点といえば、突然吐き出されて気分のいい場所ではないことぐらいだろう。
だと言うのに、
「ははっ、まあいいか」
不自然で、上機嫌な声が上がる。
普通こんな場所に突然吐き出されたら誰であろうと多少は気が滅入りそうなものなのだが、緋嵩の声にそれを感じさせるものは微塵も無かったのだ。 それどころか、時間が経つに連れてどこか機嫌がよくなっているようにすら見える。
しかし、それさえも長くは続かない。
くつくつと喉の奥で笑ったかと思えば、次の瞬間には急に真剣な表情で建物の隙間から僅かに覗く夜空を見上げる。
「……やはり、あの程度では抜け切らぬか」
今までのぶっきらぼうな口調とは打って変わり、今度はいやに年寄りめいた口ぶりで、何がしかの感情がこもったようにじっくりと呟く。
情緒不安定な挙動不審者のようにころころとせわしなく態度と感情を変え続けた緋嵩が、一気に感情が冷めたかのようにゆっくりと目を瞑ると、そのまま小さくふっと笑った。
どこか嘲笑めいたその笑い声と共に目を開くと、傾けて寄りかかっていた身体を起こし、緋嵩はそのまま薄闇を後にする。
街を彩る人工の光が彼の顔を映した瞬間、その真紅の瞳が僅かに細められ、光を反射していたのだった。
ようやくツカノマノクビキ、終了です。
ああ、はやくバトルが書きたい……orz
次章こそはバトルを、ばとる、を……はぁ(;_;)