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ツカノマノクビキ ~a slight contract~ [2.1.8]

 死者の蘇生についてあっさりと真相を見出した緋嵩に対して、いささか不満そうにしていた那凪だったが、次の瞬間にはやはりというべきか、それ相応の真剣さを滲ませたものへと表情を変えてそう告げた。

「なるほど、取り込んだ物の経験、容姿を映し出すのがそいつらの特性ってわけか。 確かに厄介だな、取り込むもの次第でどうとでもなれる。 ……それにしても、そんな奴らが居るなんて初耳だ」

「何もかもが取り込むもの次第のカメレオンみたいな奴だからね、映世の発現の有無を確かめない限り、判別は難しいと思うわ。 実際それで今まで正体を隠してきたんだし。 でも、あんた程の経験や知識があれば、会っただけでどこかおかしいって気付いたんじゃない?」

 随分と緋嵩を評価した物言いで尋ねる彼女の目に、偽りの色は無い。

 相手が鏡の特性を持つならば鏡面結界に似た術を使うのも頷けるだろう、その上、対峙したときの今までに感じた覚えの無い禍々しさが、那凪の言うとおり緋嵩にとって未知の存在であることをこれ以上ないほどに示していた。

 故に、

「それもそうだな」 

 那凪の言葉が真実か、少なくとも自分より真実に近い所にあると確信した緋嵩は、彼女の言葉に素直に同意する。

「さて、これだけ分かれば十分よね」

 掌を差し出して緋嵩に二つを投げ返させると、那凪は器用にも片手で両方を受け取り、スポーツバッグに仕舞いながら話を締め括った。

 そして、緋嵩の目に視線を合わせると、意を決したように真剣な表情のまま口を開く。

「率直に言うわ。 私たちと一緒に戦って」

 訪れたのは、たった数秒間の沈黙。

 だが、一瞬が数時間にも感じられるほどに張り詰めた緊張感を覚える者達にとっては、そんな沈黙さえも耐えがたい苦痛に他ならない。

 彼から紡がれる言葉は、果たして了承か、拒絶か。

 那凪の頬を、一筋の汗が伝う。

 ゆっくりと、目の前の男の口が開き、言葉が紡ぎだされた。

「……断る」

 静かに、だがはっきりとした声で緋嵩の口から発せられたのは、明確な拒絶を伝えるもの。

「奴等が物騒で厄介だってのは分かった。 あんたらが敵じゃないってのもな」

「だったら……!」

 落胆の空気が流れる中、緋嵩の言葉に那凪が勢いよく食い付くが、制するように緋嵩が言い放つ。

「あんたらは俺を仲間に引き入れたいんだろうが、それは俺からすれば単に足手まといが増えるだけにしかならないんでね」

 あっさりと言い放たれた緋嵩の言葉に、那凪は悔しげに唇を噛んで視線を下げるしか出来なかった。 何かを言いかけていた様子を見せていた那凪だったが、そのたった一言は完全に彼女の言い分を叩き伏せたようだ。

 高原と轟も、苦々しい顔で緋嵩から視線を外す。

「……私達とじゃ、手を組むまでもないってこと?」 

 感情を押し殺し切れていないような震える声が、下を向く那凪の口から漏れた。

「そういうことだ。 もし俺がチームに入ったとして、相手に俺と同等の実力者が現れた時、お前らに何が出来る?」

 まるで反論の余地が見つからない、残酷な現実が彼女達に突きつけられる。

 自分達が束になっても、目の前の男には傷一つどころか全力を出させることさえ叶わない。

「っ……!」 

 食いしばった歯の軋む音が何処からか緋嵩の耳に届く。

「話は終わりだ。 じゃあな」

 なんともそっけなく話を打ち切った緋嵩は、膝を起こして入ってきた襖へと向き直った。

 呼び止めるものは居ない。 少なくとも、緋嵩に現実を思い知らされた者達には今の彼へと立ち向かうだけの気力の沸く要因がない。

 一歩、また一歩と、緋嵩の足は那凪から離れていく。

 心に灯るのは喪失感か、それとも無力さへの絶望か。 どちらにせよ、去って行く彼を止められる術が彼らには見つからない。

 そう、彼らには。

このまま交渉決裂になってしまうのか!?

次回をご期待アレ(ぺこり

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