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ツカノマノクビキ ~a slight contract~ [2.1.7]

 ここへ来て初めて、緋嵩の表情に動揺が浮かぶ。  

 確かめるように手元にある鍔に改めて視線を落とす彼へと向けて、尚も彼女の説明は続く。

「万物には意思がある。 長い年月を掛けてその意思を外に表現できるようになったものを付喪神つくもがみって言うのは、よく知られてる話よね」

「ああ。 だが付喪神はその殆どが力の無い雑魚の筈だ。 それに、人間を無差別に襲うなんてのも二十年に一度あるかないか」

 握っている鍔から視線を外して目を瞑ると、緋嵩が意識をあのときの記憶へと向けた。

 二日前に見た異形。 尋常なものとは言えないその姿と、漂った嫌な気配を思い出しながら、彼は改めて那凪の言葉を否定する。

「そもそも俺が見たあれは、そんな生易しい感じじゃなかったぞ。 穢れきった気配に意思なんぞ感じられなかった。  意思を持つことで生まれ出でた付喪神が、その意思を失って殺戮衝動のままに動くなんて有り得るのか?」

 少なくとも、緋嵩が知る中でそのような現象には覚えが無い。 

 それもその筈。 付喪神とは元々、物に意思が宿ることで誕生するものなのだ。

 だが、緋嵩が目にした存在は他種族とコミュニケーションが取れるようなものとは到底言えなかった。 意識にあるのは目の前の獲物を捕らえる事のみ。 言うなれば、狩猟本能や殺戮本能とでもいうべきものの塊とも呼べる存在だったのだ。

 知性の欠片も見られないこんなお粗末な意思しか持たないくせに、何人もの人間を殺める程の能力を有する存在は、とても付喪神とは呼べないだろう。

「そう。 本来の彼らなら、ね」

 緋嵩の疑問に答えた那凪の言葉に、嫌な響きが混ざる。 

「どっかの誰かが、力のある付喪神を化け物に変えたって事か?」

「いいえ、もっと厄介よ」

 不吉な答えと一緒に、那凪が鍔を放った手をもう一度緋嵩に向けて振るう。

 今度も難なく受け取って掌を開いて見ると、先ほどよりも小振りなそれが人工の光を反射して白く輝いていた。

 余計なものを含まない、完全な純白の円錐形。 一見して何かの結晶のように見受けられるそれを見て、何故か緋嵩の動きが止まった。

 表情にも硬さが表れ、その目が僅かに見開かれる。

「鬼の、角、だと……」

 急に硬質な響きを見せた緋嵩に、とうとう那凪が諦めたような、驚きを通り越した呆れを滲ませて呟いた。

「呆れた。 あんた、一体何者よ? 一目でそれが鬼の角って分かるなんて……それ、一応私達が人類初の発見だって自負してたのに」

 愚痴る那凪をよそに、緋嵩は次の瞬間にはいつもの態度を取り戻していた。 那凪達からすれば彼の行動は、珍しいものを見た驚き程度にしか悟られないだろう。 

 もし彼の目が見せた刹那の輝きが知覚できたなら、もしかすればその表情に仕舞われた奥が覗けたのかもしれないが、既にそれが叶うことは無い。 

「俺も人づてに聞いた程度で、実在するとは思ってなかったくちだ。 成る程、確かにあいつの風貌は物語なんかに出てくる鬼に共通する部分が多いな。 ……これの影響でも受けた、新種の付喪神か?」

 緋嵩の正体云々はさておき、彼の問いに那凪はゆっくりと首を横に振った。

「厳密に言えば、奴らは付喪神であって付喪神じゃない。 核に使われてるのは付喪神の本体だけど、それは既に死んだ後の抜け殻で、つまりは媒体に使ってるだけ」

 那凪の説明を受け、緋嵩は静かにその手にある角を握る。

「死体を贄に……」

 視線を上げた緋嵩の目に灯る困惑に、促されるように那凪が説明を続けていく。

「そう。 黒魔術とかそのあたりの文献では、悪魔の召喚に生贄や動物の骨なんかを使ったって書いてあるけど、これはそういったのとはぜんぜん違う。 知識や経験、特性なんかを受け継がせながら、本質はあくまで鬼のまま」

「待った。 核が死体で、しかも二重の特性って事はまさか、この鬼の方も死体か?」

 緋嵩の疑問に、那凪の首が今度は縦に動かされた。

 彼女の示す肯定に、緋嵩の思考が冷めていく。

 死体に死体を重ねて生を造り出すなどということは、如何なるものと言えど不可能なのだ。 一度死んだものはどんな魔術を施して、その結果例え魂を呼び戻したとしても肉体に宿らせることは出来はしない。

 死とはこの世界の線引きを超える事に他ならず、一度超えたものはどうやっても再び肉体を得る事は叶わないのだから。

 死者の蘇生術など存在しないという事を、緋嵩は良く知っていた。 それ故に、彼の脳は那凪達の話を素直に死者の蘇生と受け取ることは出来なかったのだ。 またそれ故に、真相を導き出すことが出来たとも言える。

「死体が蘇るって三流ホラーなら要らないぞ。 つまりは、その二つを繋げて糧にした奴が居るって事だろ」

 緋嵩の、今までの話の流れを全否定するような一言に那凪が溜息を吐きながら半眼で呟いた。

「私達のやってること自体、作り話染みてるって思わない? まあ、正解なんだけどね。 ……私達は、「禍鏡」(かきょう)って呼んでる。 

禍を映す鏡で、禍鏡。 それが、私達の敵」

ようやく敵の総称判明。

な、長かった……

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