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ツカノマノクビキ ~a slight contract~ [2.1.4]

 声と同時に、緋嵩たちの隣の部屋の襖が開く。

 やはり、と言うか。 開いた襖の向こうには緋嵩が思い描いた通りの面々が佇んでいた。

 つい最近会った、いや、叩きのめしたばかりと言うべきか。 よくもまあ昨日の今日で会う気になれたものだと、その神経の図太さに緋嵩は呆れた表情を浮かべている。 

 彼の前に現れたのは当然、那凪と高原、そして轟の三人だ。

 昨日決別したばかりの相手との早すぎる再会に、緋嵩から重く長い溜め息が零れた。 

「やっぱり、あんたらか。 二度と関わるなって、言ったはずだが」

 呆れているというよりは一気に疲れが襲ってきたという感じで、緋嵩が那凪に問いかける。 彼の今までの那凪たちに関する出来事を考えれば、無理もない。 少なくとも、好意を抱けるような出来事は彼らの間に起こっているとは言えないのだから。

「それについては守れそうもないわ。 このままじゃ気がすまないことがあるから」

 あっさりと緋嵩の言葉を一蹴すると、那凪はつかつかと足早に彼に近づいていった。

 つい最近、死んでもおかしくないような、少なくともかなりの恐怖を味合わされた相手。 だと言うのに、彼女の行動はとても堂々としたものであり、その何処からも気負った様子は見られない。

 よほど肝が据わっているのか、それとも、ただの馬鹿なのか。

 気がすまないと言う言葉の真意が掴めずに、緋嵩はただ那凪の行動を見続ける。

 彼女は緋嵩から一メートルほど離れた所まで歩いて来ると、そこで止まった。

 緋嵩がちらりと残った二人の男達に視線を向ける。 もし何かよろしくない事をする気なら、那凪に目がいっている今はその絶好の機会であり、歴戦を潜り抜けてきた彼らがそこを逃す手は無いからだ。

 だが、どうにも彼らは動く気は無いようで、ただそこにじっと立ち尽くしているだけで動く気配さえ見せないまま。 

「……ぅ」

 ゆっくりと、那凪が瞼を閉じて息を吐く。 

 心なしかその表情には、緊張や戸惑いといったものが浮んでいるように緋嵩の目には映った。

 息を吐き終えた那凪は目を開けると、その場いっぱいに響く声で、ただ一言。

「ごめん!!」

 がばっと勢い良く背筋を曲げる那凪。 同時に発せられた言葉は、部屋全体に響き渡った。

 予想外、と言うほどの行動でもない。

 多少は考えていた、もし那凪達がまたアプローチを掛けてきたらこういう行動に出るだろうなと予想したうちの一つ。 それだけに緋嵩は対して驚くこともなく、彼女の言葉を受け入れられた。

 言葉の、その意味だけは。

「…………何してんの?」

 相手からの返事が無いままな事を不思議に思った那凪が恐る恐る顔を上げると、そこには何故か、片目をつぶり眉間に皺をよせ、右耳に指を突っ込んだ不可解ポーズの緋嵩の姿が。

 思わず謝罪のときのような沈痛なものとは打って変わった、間の抜けた声が那凪から漏れる。

「て、てん、ちょう。 声、大きすぎ、です」

 彼女の声に応えたのは緋嵩、ではなく、その横から。 緋嵩よりも大げさに、屈みこんで両耳を押さえる格好をとっていた御国がなみだ目で訴えた。

 御国に同意するかのように、やや震える声で緋嵩が口を開く。

「鼓膜が……」

「すみません、緋嵩さん。 店長、たまに暴走しちゃうんです」

 未だダメージの抜け切れない様子の緋嵩を見上げて、御国が申し訳なさそうに言う。

「ああ、知ってるよ」

 嫌なことでも思い出すように苦い顔つきをしながら御国に返した緋嵩が、ようやく耳から指を抜いてその目を那凪に向ける。

「よく知ってる」

 手を下ろしながら再び呟いた彼の声は、やけに冷たい響きを放っていた。 それだけで、彼の雰囲気ががらりと変わる。

「それで? 謝るためだけにここに呼んだのか?」

 先を促すような、まるでこれだけで終わるわけがないと確信があるような言葉。

 この場所まで来た、もっと言えば、御国に誘われた時点で厄介なことになるだろうと緋嵩は踏んでいた。

何故なら、謝るや話をすると言った単純な目的だけならば、何も別の場所まで呼びつける理由はない。 わざわざ連れ出して、しかも自分の陣地に呼んだと言うことは、何かしらここに呼ばなければならない訳があると言うことに他ならないからだ。

 おどけるような、皮肉げなその口調とは裏腹に、まるで内心を見透かすような彼の鋭い視線を受ける那凪の顔が、一気に緊張を取り戻す。

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