表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/39

ツカノマノクビキ ~a slight contract~ [2.1.3]

「なあ、何処に行くかは教えてもらえないのか?」

 とことこと自分の前を先導していく御国へ緋嵩が尤もな問いを投げるが、彼女は歩きながらただ困ったような顔を彼に返すのみだった。

「ええと……すいません。 着くまでのお楽しみだから内緒にしといてくれって言われてるんです」

 返ってきた答えに緋嵩が怪訝そうな顔をすると、御国が慌てて付け足すように言う。

「あ、でも危害を加えるとかそんなことは一切無いんで、ぜんぜん大丈夫ですから」

 行く先も知らされず大丈夫と言われても気休めにもならないのだが、その辺りには目を瞑るしかないらしい。 成る程、こういう相手の不安を煽る場所へ連れて行く場合の人選としては、彼女は適任と言えるだろう。

 見るからに人畜無害な虐められ易さを放出している上に、断ったほうが罪悪感を覚えさせるのだから、たまったものではない。

「はぁ、わかったよ。 あんたについて行けばいいんだな」

「お願いします」

 だらりと首を下げて降参のポーズをとると、緋嵩はげんなりした様子で仕方なさそうに呟いた。 彼の様子に歩きながらも小さくぺこりと頭を下げると、御国は再び前に向き直る。

 それからは特に話すでもなく、黙って緋嵩は御国の後ろを歩くことに徹した。 幸い五分も立つ頃には見覚えの無い風景へと変わったので、散歩の感覚で周りを眺めつつ歩いていたので、それほど退屈と言うわけでもなかったようだ。

 ただ、つい最近同じような状況でなんとも嫌な思いをした感覚が緋嵩の脳裏に思い出されるが、考えてももう付いて行ってしまっているわけだし、仕方が無いという結論に至った。

 結局のところ彼は、罠を食い破って仕掛けた相手を五分刻みにするだけの実力を備えている。 何があっても何とかできると言う自身ゆえの余裕が、やはり無意識にでも思考に出ているのだろう。

 何はともあれ、御国について歩き始めてからかれこれ一時間ほど経った頃。 道中大した事件も起きないまま、彼女から到着の言葉が出されることとなった。

 彼らの目の前に現れたのは、時代を感じさせる、一軒の屋敷。

 色あせた木の外壁に今の時代稀少とされる瓦敷きの屋根、入り口は戸ではなく横にスライドする形のものが適用されている。

 緋嵩の顔が、微妙に歪んだ。 つい最近、彼はこれと良く似た造りの家を目にした記憶があるのだ。

(まさか、な)

 緋嵩の頭に直情的な、悪くいえば単純そうな思考を持つ見た目だけは悪くない女の顔が浮かぶ。

 流石にあれだけ脅した後に昨日の今日でこうも大胆なアプローチをしてくるとは思えなかったが、それでも注意だけはしておくに越したことは無いと、緋嵩は御国の後ろでそっと眼鏡を外すと、胸にあるポケットにしまった。

 御国はそれに気付く様子も無く、緋嵩に背中を向けたまま入り口を開ける。

「さ、どうぞ」

 前を向いたままそう言って先行して行く御国に従い、緋嵩もその屋敷へと足を踏み入れた。

 思った通りの広い古風な玄関で靴を脱ぎ、二人は屋内へと入って行く。 案内されるまま、それなりに広い廊下を御国について歩くと、間もなく十畳ほどの広さの和室へと辿り着いた。

「ここです」

 襖を開け、部屋の真ん中まで緋嵩を連れて行くと、御国の足がそこでぴたりと止まる。 おもむろに彼に向き直ったその顔は、まさに真剣そのものといった様子だ。

「何も聞かずにここまで来てくれて、ありがとうございました」

「で、いい加減こんなとこに連れて来た訳を聞かせてもらえるとありがたいんだがな」

 御国からの感謝には答えずに、両手を組んで皮肉げな笑いを浮かべる緋嵩。 彼の質問に御国が口を開きかけるが、それよりも早く室内に二人のものでは無い声が響いた。

「それは私から説明するわ」

さてさて、彼に声をかけたのは一体だれなのかっ?

いやまあ、皆様の予想通りなんですけどね(苦笑

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ