デアイトハカイ ~first contact~ [1.1.1]
短くなが~く、続いていきますm(_ _)m
この世界に人間以外の知的生物はいない。
そんな常識が説かれたのはいつからだろうか。
十年前か? 百年前か? それとも、人類が生まれたその時から深層意識に刻み込まれてでもいたのか?
いずれにせよ、それは誤りだ。
この世界に、それはいる。 数え切れないほどに。
空に、海に、陸に、彼等はひしめいて溢れかえっている。
ただ、人が知覚できていないだけだ。
だが少なくとも、今ここにいる人間達は、世に知られていない種族の存在を知っていた。
「これで七件目、か」
木製の枠と家具に囲まれた、ともすれば歴史ある武家屋敷の一室とも思われる場所で、トーンの低い女性の声が畳に敷いてある新聞に落とされた。
ポニーテールに結った黒髪に、すらりとした身体。 美人というよりは可愛いと評されるような顔も相まって、まさに美少女と呼ばれるに相応しい容姿の女性が、そこに居た。
苦虫を噛み潰した表情で発せられたその一言に、部屋に居る他の人影からも苦々しい雰囲気が漂っていた。
現在、この部屋にいるのは彼女を含め総勢四人。
外見からして全員大学生か、それに近い年齢であろう男女が、新聞を囲むような形で座っている。
彼らの視線全てが、同じ記事へと向けられていた。
『通り魔の恐怖! 相次ぐ犠牲者は警察の怠慢か!?』
新聞の一面に大きく印刷された物騒なタイトル。 それは、今月の初めから始まった通り魔事件だった。
被害者に統一性は無く、現金を奪うわけでもない。
こういった事件はこの辺りでは別段珍しいものではないが、ならばなぜここまで注目されるのか。 それは他のそれとは違う奇妙な点、言うなれば、世間で注目されるようなイロがあるからだ。
今回の場合においては、殺害の方法だった。
被害者達の死亡原因は、皆一様に、全身骨折と内臓破裂。 それも、まるで巨大な手に握りつぶされたような跡を残して。
目撃者も、悲鳴を聞いたものもいない。 夜とは言え、それなりに大きなこの街中でこんな派手な殺害方法をして誰にも気付かれずにいられるものだろうか。 そもそも、凶器はいったい何か。
余りの情報の少なさに、警察は未だ有力な情報は愚か、殺害方法さえ分からない状態だった。
最初の犯行が起こってから、既に十日あまり。 たったそれだけの間なのに被害者はもう七人にものぼっている。
手段不明、手掛かり無しの連続猟奇殺人。 世間を騒がせるのには十分過ぎる事件であった。
「ここまで派手なのは久しぶりだね。 この前なんかはしょぼい行方不明事件で記事にもならなかったのにさ」
始めに呟いた女の隣で方膝を立てて座っていた男が、立てた膝に置いた腕で口元を隠しながら、皮肉を込めた口調で言った。
明るく染めたブラウンの髪に、それなりに整った容姿とそれを彩るアクセサリー。 見るからに軽薄そうな印象を与える男だったが、今は多少真面目な表情を浮かべていた。
それに合わせて、彼の向かいに座っていた一番年の若そうな女性が苦い顔で口を開く。
「そうですね。 最近は大人しかったのに、何で急にこんな……」
畳に下ろした手を握りながら、その目には動揺と被害者への同情が浮かんでいた。
長い黒髪に低い背丈、やや気弱そうな、ともすれば少女といっても過言ではないような顔で言う様子は、ただでさえ苦々しい事実の雰囲気を一回り程濃くしているように感じられる。
一瞬。 その場に居る誰もが押し黙り、嫌な沈黙が流れたが、幸いにもすぐにそれは破られたが。
「まぁ、やられちまったもんをどうこう言っても、もうどうにもならんだろ。 俺たちはただ、次に誰かがやられないようにするしかないさ」
沈んだ場に区切りをつけるような言葉を放ったのは、この場にいる最後の一人。
第一印象を聞けば十人が十人ともが格闘家と言いそうな、短髪で引き締まった体つきの男が、太い両腕を組んで胡坐をかいてそこにいた。
その外見に似合った野太い声は、未だ若年とは言えどもそれなりの風格を伴っている。
「……そうね。 とりあえず、虎さんの言うとおり。 私たちにできる事をやりましょ」
「はい」
「だね」
ともすれば無情とも取れる男の言葉だったが、それに異を唱えるもの居なかったのは、彼の人徳ゆえだろうか。
本来成すべき事を思い出した三人が、自身の感情を切り替える言葉と共に、ゆっくりと互いに頷き合う。
死者を哀れむにはまだ早い。
少なくとも、彼らにとっては。
「さて、それじゃあ作戦会議といきましょうか」
一転して、気合の入った声でポニーテールの女性の宣言に、他の三人の同意の声が重なった。