ツカノマノクビキ ~a slight contract~ [2.1.1]
皆様、長らくお待たせ致しました!
え? 待ってない?・・・・・・さあさあ「カオスポット」第二部(知覚編)遂にスタートにてございます!!(……くすん
「お会計、百五円になります。 …………丁度お預かりします。 ありがとうございました。 ……くぁ」
午前中最後の客を見送った緋嵩の口が、大きく開けられる。 客の居なくなった店内に、ひときわ大きな彼の欠伸が放たれた。 目元が潤み、流れた涙を掌で乱暴に拭う。
結局、あれから緋嵩が家に着いたのは深夜二時を回った辺りだった。 迷いに迷った挙句、やっとの思いでアパートの自分の部屋に帰ってきた緋嵩は、そのままベッドへ倒れ込むようにして寝入ってしまった。 そして、程なくして目覚ましに無理やり覚醒させられ今に至ると言うわけだ。
遅刻こそしなかったものの欠伸の一つも出ようもので、彼にとってはどうにも気だるい一日になってしまったようである。
「おやおや、ずいぶん眠そうだね」
二度目の欠伸の後、昨日とは違う眼鏡の上から眉間を押さえて眠気を抑えようと試みている緋嵩に朗らかな声が投げかけられた。
ふくよかな顔に今日もまた笑顔を浮かべて店の奥から現れたのは、言うまでもなくこの店の店長だ。
珍しく手に缶コーヒーなんてものを持って、彼女は今日も緋嵩にねぎらいの言葉を掛けた。
「お疲れ様。 はいこれ」
そう言って、手にしたコーヒーを緋嵩に投げる。
「っと。 どうも」
胸の前に投げられたそれを両手で受け取った緋嵩が、その体制のまま会釈した。 眠そうな顔のまま頭を垂れた緋嵩の様子が面白かったのか、彼女は豪快に笑う。
「はっはっは、緋嵩君は今日午前いっぱいで終わりだから、帰ってゆっくり休みなさい」
にこやかにそう言うと、彼女は緋嵩と違ってはきはきとした様子でもう一方のレジへと向かっていった。
「そうさせてもらいますよ。 お疲れ様でした」
すれ違いに合わせて緋嵩がそう返すと、彼女は振り向かずに片手だけを上げて歩いていく。
いつもより三割り増しの倦怠感を感じながら、緋嵩は今日は煙草の箱ではなく、コーヒーの缶を持ってロッカー室へと入って行った。
自分に割り当てられたロッカーの上にコーヒーを置いてさっさと着替えると、最後に夏場に相応しくない黒のコートを羽織り、五分と経たないうちに帰り支度が完了する。
後は帰るだけだと、レジ仕事で固まった筋肉をほぐすように伸びを一つ。 その際にも、また欠伸が。
「さ、て。 帰るか」
裏口を開けると、いつものように日陰に浸された陰気な景色が彼の視界いっぱいに広がる。
いつもと同じ。 斜め向こうの隙間から覗く僅かな空、すぐ傍に立ててある薄汚れたゴミ箱、汚い壁、そして目の前に佇む清楚な雰囲気の少女。
「……ん?」