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アカゾメノケモノ ~witch is the monster~ [1.3.5]

遂に五日目。

これにて第一部(出会い編)は完結でございます。


 彼女が意気揚々と月に宣言している、まさにその時。

 緋嵩の方はと言うと、其処から五百メートル程離れた位置で何故か立ち止まっている最中だった。

 既に目は薄い赤を黒に滲ませる程度に鎮められ、髪も首筋までの黒い短髪へと戻っている。

 緋嵩は何もしようとはせず、目の前をただひたすら見つめていた。

 まるで何かを観察するような仕草だが、もちろん彼の前に在るのは代わり映えの無い町並みだけである。 視線の先に至っては何処へ続くとも知れない道路だけ。 

 つい、と緋嵩の手が起こされた。

 肘を曲げ、掌を肩ほどの高さまで上げると、人差し指で何も無い空中を指す。 そのまま指だけをこまめに動かして、まるで何かをつつくような格好を作り出した。

 当然、何も無い空中でやっても何かが反応するわけではない、筈だったのだが。

 そう、まるでガラスで出来たグラス同士を合わせたような、甲高い涼やかな音がどうした訳か緋嵩の指先から流れ出たではないか。 しかも、何も無い空中の空間が、まるで水面の波紋のように揺れ広がっていく。

「やっぱ、結界の一種か。 それにしても、こんな種類のもの聞いたことも無いな」

 記憶を手繰るように呟きながら二度、三度とその付近をつつくと、やはり同じように甲高い音が響き、直系三十センチほどの波紋が起きては消える。

 何度かその様子を確認し、吟味した緋嵩。 その腕が、次の瞬間大降りに振り上げられた。

「ふっ」

 短い掛け声と共に勢い良くその手が正面に振り下ろされる。

 布を思い切り引き裂いたような、カーテンを勢い良く明けは立つそれに似た音が辺りに響き渡った。

 音が響きこそしたが、一見して緋嵩の居る景色が変化した様子は無い。

 相変わらず異常なほど夜の静寂に包まれた町並み。 だが、緋嵩には何かしらの手ごたえがあったようだ。

 振り下ろした手をズボンのポケットにしまい、両手をしまった格好に戻ると、ゆっくりと歩き出した。

「……はあ、結局ここ最近騒いでる莫迦共の情報は得られなかったな」

 途中、立ち止まってため息をつきながら一人ごちると、緋嵩は思い出したように振り返って今なお那凪たちの居るであろう場所を見つめる。

 情報を得る機会を台無しにしたのは緋嵩自身なのだが、生憎この場にそれを指摘する者は居ない。

 やがて、視線を前に戻すと、彼は気だるげな様子で煙草を箱から取り出して口に咥えた。 ライターで火をつけて浅く煙を吸う。

「まあ、ちゃんと退治屋もいるみたいだし、放っといても良いか」

 煙を吐き出しながらそう言うと、煙草を咥えた格好のまま緋嵩は腕を振り払った場所を通り抜けた。

 途端、彼の耳に聞きなれた雑踏の音が飛び込んでくる。 それだけではない、虫の囀り、人工の無機物音も。

 目の前に急に現れた通行人に、互いに驚くでもなくすれ違うと、緋嵩がぼんやりと空を向いて呟いた。

「……ここ、何処だ?」

 思い返せば、彼は那凪と見せの正面で会ってから彼女の案内でここまで来たのだ。 つまり、ここは彼にとって全く見知らぬ地区であり、帰り道など分かるはずが無いのである。

 緋嵩は一瞬だけ、音を取り戻した町の中でさっきまで自分が居たであろう場所を振り返った。

 確実に帰りたいのであれば、案内人の居る場所は間違いなく彼の向く方向に居る。 尤も、あれだけのことをしでかしておきながらわざわざ戻って道を聞く、と言う事が出来なければ、戻る意味は無いのだが。

「ま、何とかなるだろ」

 どうやら彼でも、それほど図太い神経は持ち合わせていないらしかった。 顔を正面に向き直し、なんとも気軽な様子で呟くと、ゆっくりと那凪たちとは逆方向に歩みを進めていく。

 煙草から出る紫煙が、闇夜の月をぼんやりと白く曇らせていたのだった。

さてさて、次回からはいよいよ第二部突入!

激遅更新な私ですが、どうか見捨てないでやってくれると嬉しいです

m(_ _)m(ぺこり

ではでは皆様、一週間後に乞う御期待!!

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