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アカゾメノケモノ ~witch is the monster~ [1.3.3]

「!?」

 知覚したものが何かも分からないままに那凪の視界が闇に閉ざされ、凄まじい衝撃が彼女の顎から頭まで一気に突き抜けた。

 声さえも出せずに那凪の身体が横向きのまま吹き飛ばされる。

「店長!!」

 無様にバウンドして転がる那凪に高原が声を上げた瞬間、

「おおおおおおおお!!」

 轟の咆哮が大気を振るわせた。

 いつの間にか緋嵩の背後に回っていた轟の拳が、唸りを上げて緋嵩の顔面に落とされる。

 那凪の見た黒い物体の正体は、どうやら打ち出された緋嵩の右手だったようだ。

 彼女に対して右手と右足を前に突き出した格好のまま、緋嵩は無造作に右腕だけを後ろへやった。 その、肌色とは似ても似つかない、漆黒の殻に覆われた右手を。

「ぐぅっ!」

 赤い閃光が緋嵩と轟の間で激しく撒き散らされた。

 火花の爆ぜる耳障りな音を立てながら、緋嵩の右手の甲と振り下ろされた轟の拳との間で煙が上がる。 次第に周りの空気は歪み、地面は溶岩を連想させる仄かな赤みを帯び始めたではないか。

 それほどの熱量の発生源と接しているというのに、緋嵩は何食わぬ顔で轟の拳を受け続けていた。

「が、あああ、ああああああああああ!!!!」

 地面をしっかりと踏み込み、尚も力と熱を放出し続ける轟。 その顔には汗が滲み、歯は折れんばかりに食いしばられている。

 だが、それでも、

「……終わりか?」

 呆れたような声で尋ねる緋嵩の開かれた半眼が、轟を射抜いた。

 特に力を入れる様子も見せず、右手を無造作に上げたまま、緋嵩は唸る轟の拳を押しやって体制を元の直立へと戻していく。

 その途中で、

「なめるなっ!」 

 高橋の叫びと共に、再び炸裂した数十の弾丸が轟を抑えている緋嵩の右腕の関節部に直撃した。 面ではなく、点としての攻撃を重視した弾丸が、寸分の狂いも無く同じ箇所に連続して着弾する。


 衝撃、衝撃、衝撃衝撃衝撃衝撃――


 一秒の何百分の一の感覚で浴びせられる大口径拳銃の精密連射は、緋嵩の腕を破壊するには遠く及ばなかったものの、その腕の軸をずらすことぐらいは成功してみせた。

 轟の拳を受けていた手は横滑りし、その顔面が振り下ろされる拳の直線状に無防備に投げ出される。

 殻に覆われていない部分では、さしもの彼の無傷とはいくまい。

 相手の力量を侮ったばかりに、とうとう一矢を報いられた緋嵩の顔に浮かぶ表情。 それは、――嘲笑。

「ガッ!?」

 機械的な、声帯が無理やり震わされたような音が轟の口から漏れた。

 確かに緋嵩の腕は轟の拳から外れた。

 だが、動いたのは腕だけでは無い。 動いたのは、その身体ごとだ。

 外側へと掛けられた力そのままに身体を半回転させ、空中回し蹴りの要領で轟の後頭部に一撃。

 振り下ろしていた腕に全神経、全体重を注いでいた轟に避けられる道理は無かった。

 緋嵩が足を振りぬくと同時に、轟の身体が冗談のように宙を舞い半円を描いて地面に叩きつけられる。 

 一方の緋嵩は、振りぬいた足が地面に付くと同時に身体の向きを変え、高原のいる方向へ弾かれる様に跳躍した。

「ば、けものおおお!!」

 高原が残った銃弾の全てを緋嵩に向けてぶち撒ける。

 いくら力のベクトルが認識できるとは言え、これほどの威力を持つ銃撃の反動を完全に逃がしきれる訳ではない。 額にびっしりと汗をかき苦悶の表情を浮かべる高原の腕は、既に狙いをつけることさえままならず、銃弾は緋嵩の脇を掠ってゆくばかり。

 遂に手の届く距離まで接近を許してしまった高原、その足は絶え間ない銃撃の連射で固まり、場を動くには遅すぎた。

「ぐっ!」 

 腹に肘打ちを入れられた高原の身体がくの字に曲がって地を離れる。

 避けきれず、だがそれでも僅かに後ろへ跳ねることで若干のダメージを逃がした高原だったが、今回はそれで終わるほど甘い相手ではなかったようだ。

「なっ!? がはぁ!?」 

 間髪入れずに浮いた足を蹴り上げられ、空中で仰向けの形にまんまと身体を晒してしまった高原の、先ほどと同じ位置に今度は拳が振り落とされた。   

 相手の軌道が読めても、逃がす術が無ければどうしようもない。

 今度こそ襲い掛かる威力の全てを受けた高原は、その馬鹿げた衝撃に意識を薙ぎ払われ無防備に腰から地面に叩き落された。 

 訪れたのは、静寂。

 緋嵩意外に動くもののいなくなったその場所で、夜の闇を纏うように、緩やかに彼は周りを睥睨した。

 ぴくり、と。

 彼の視界の隅で、何かが動く。

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