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第九十八話:束の間の再会と影

山本嘉位やまもと かいが帰国するという報せは、蓬田香織よもぎだ かおりの心に、期待と不安、そして激しい動揺をもたらした。彼に会える。しかし、婚約者とご一緒に。かえでからのメッセージが、香織の心を締め付ける。


その夜、香織は眠ることができなかった。彼が日本にいる。同じ空の下にいる。会いたい。彼の顔を見たい。彼の声を聞きたい。


翌日、学校に行くのが怖かった。もしかしたら、学校に来ているかもしれない。会いたい。でも、会うのが怖い。どんな顔をして会えばいいのだろうか。


学校に着くと、香織は、彼の席に視線を送った。しかし、彼の席は、空席のままだった。彼の姿は、学校にはなかった。


香織は、少しだけ安堵したが、同時に、寂しさも感じた。彼は、学校には来ていないのだろうか。それとも、来ることはできないのだろうか。


授業中も、香織は上の空だった。彼のことが頭から離れない。今、どこにいるのだろうか。何をしているのだろうか。婚約者と一緒に。


昼休みになり、香織は八重やえと一緒に食堂へ向かった。食堂は、いつも通り賑わっている。しかし、香織の視線は、無意識のうちに「かい」たちのいつものテーブルを探してしまう。


しかし、彼の姿はない。桜井さんや佐伯麗華さえき れいかもいる。二人は、楽しそうに話している。


香織は、心が締め付けられるような痛みを感じた。彼がいないのに、彼女たちは楽しそうだ。それは、彼との別れを喜んでいるからなのだろうか。


放課後になり、香織は八重と一緒に下校していた。学校の門を出たところで、見慣れない黒塗りの高級車が止まっているのが見えた。そして、その車の傍に、見慣れた人物が立っている。


山本嘉位だった。


香織の心臓がドクンと大きく跳ねた。彼だ。彼は、日本に戻ってきていた。そして、ここで待っていた。


彼の隣には、見慣れない、美しい女性が立っていた。洗練された服装で、上品な雰囲気。彼女が、彼の婚約者だろうか。


「山本君…」香織は、震える声で彼の名前を呼んだ。


「かい」は、香織に気づくと、一瞬だけ驚いたような表情になったが、すぐに優しい笑顔になった。しかし、その笑顔は、どこか影を含んでいるように香織には見えた。


「蓬田さん…! ごめん、待った?」


「かい」は香織に近づいてきた。しかし、彼の隣にいる婚約者らしき女性は、香織に冷たい視線を向けた。その視線は、以前楓から向けられたものと似ていた。


「あの…婚約者の方…ですか…?」香織は、恐る恐る「かい」に尋ねた。


「かい」は、少しだけ困ったような表情になった。そして、隣にいる女性に、「こちら、学園でお世話になっている、蓬田さんです」と紹介した。


女性は、香織に会釈をしたが、その表情は硬く、冷たかった。


「…山本君…」香織は、もう、どうすればいいのか分からなかった。彼に会えた嬉しさ、そして、彼の隣にいる婚約者の存在。混乱が香織の心を支配する。


「かい」は、香織の様子を見て、何かを察したのだろうか。彼は、香織の手を取り、優しく握りしめた。


「蓬田さん…少しだけ…話せないかな…?」


彼の声は、切実な願いを含んでいた。香織は、彼の隣にいる婚約者の視線を感じながら、どうすればいいのか迷っていた。


その時、車の後部座席のドアが開き、そこから山本楓が降りてきた。楓は、香織の姿を見て、冷たい微笑みを浮かべた。


「あら、お兄様。何をしていらっしゃるのかしら? 早く、参りましょう?」


楓の声は、どこか挑戦的な響きを帯びていた。楓の登場によって、事態はさらに複雑になった。


束の間の再会。しかし、それは、婚約者と楓という、二人の間の壁を目の当たりにする時間だった。波乱は、まだ終わっていない。そして、その波乱は、彼と香織の愛を、再び試すことになるだろう。




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