第九十四話:見えない手助けと希望の兆し
山本嘉位が海外へ行ってから、時間は静かに過ぎていった。蓬田香織は、彼の声が録音されたキーホルダーと、千佳からのわずかなメッセージを支えに、彼の帰りを信じて待っていた。学校でのライバルたちの嫌がらせに耐えながら、香織は彼の無事を祈り、彼からの連絡を待ち続けた。
冬が深まり、街にはイルミネーションが輝き始めた。クリスマスの雰囲気。しかし、香織の心は、寂しさに包まれていた。彼と一緒に過ごすはずだったクリスマス。
一日、一日クリスマスソングが鳴り響く街並みは、とても明るいものになっていたが、香織は下を向いたままであった。
ある日の放課後、香織は八重と一緒に下校していた。学校の門を出たところで、見慣れない男性が香織に近づいてきた。スーツを着た、落ち着いた雰囲気の男性だった。
「蓬田香織さんでいらっしゃいますか?」男性は、香織に丁寧に尋ねた。
「はい…」香織は戸惑いながら答えた。
男性は、香織の顔を見て、優しく微笑んだ。
「山本嘉位様より、言伝を預かってまいりました」
その言葉を聞いた瞬間、香織の心臓がドクンと大きく跳ねた。山本君から。伝言。
「あの…山本君は…大丈夫なんですか…?」香織は、震える声で尋ねた。
男性は、香織の心配に、静かに答えた。
「御坊ちゃまは・・・」まずは、こちらを蓬田様へ。
「御坊ちゃまは…蓬田様のことを…大変、心配されておられまして…」
男性は、そう言うと、香織の手を取り、香織の手に、小さなものを握らせた。
それは、以前千佳から渡された、小さな折りたたまれた紙と同じようなものだった。
「これは…?」香織は驚いた。
「御坊ちゃまからの…お伝言でございます。今回は…私に…」男性は静かに言った。
「かい」からの伝言。それは、千佳だけでなく、他の人物を通して、香織に届けられている。それは、彼が、困難な状況の中でも、香織との繋がりを保とうと、必死になっている証拠だ。
男性は、香織に会釈をすると、静かに立ち去っていった。香織は、手に握りしめた紙と、男性の言葉の意味を理解しようとしていた。
公園のベンチに座り、八重が傍にいることを確認し、紙を開いた。そこには、「かい」の、聞き慣れた筆跡で、短いメッセージが書かれていた。
「蓬田さんへ。心配かけてごめん、24日に日本に帰るよ。早く会いたいよ。嘉位より」
何度も読み返した
読み返しながら、涙が止まらなかった
返ってくることのうれしさが、溜まらなかった
ここまで、嬉しいと思って泣いたことは今までになかった。
八重は、
泣きながら、良かったね、良かったね、信じて良かったね
と、二人は一緒に泣いて、涙が止まらなかった。
冬の寒さの中、やっと会える、そんな熱い気持ちが寒さを忘れさせてくれた。
彼との再会への希望を胸に
(つづく)




