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第九十三話:千佳との再会と繋がった糸

山本嘉位やまもと かいが海外へ行ってしまってから、蓬田香織よもぎだ かおりは、彼の声が録音されたキーホルダーと、千佳ちかからのわずかなメッセージを支えに、彼の帰りを信じて待っていた。学校でのライバルたちの嘲笑に耐えながら、香織は彼の無事を祈り、彼からの連絡を待ち続けた。


ある日の放課後、香織は八重やえと一緒に、彼の家の近くの公園に来ていた。もしかしたら、千佳に会えるかもしれない。あるいは、何か、彼の状況を知る手がかりが見つかるかもしれない。


公園のベンチに座り、香織はぼんやりと彼の家の方を見ていた。高い塀に囲まれた、立派なお屋敷。そこは、香織にとって、遠い世界のように感じられた。


どれくらいの時間が経っただろうか。香織が諦めて帰ろうとしたその時、公園の入口に、見慣れた人物の姿を見つけた。猿飛千佳さるとび ちかだった。


香織は、思わず立ち上がった。千佳は、香織に気づくと、こちらに向かって歩いてきた。


「蓬田様」千佳は、香織に優しく微笑みかけた。

「あ、あの…千佳さん…」香織は緊張しながら、千佳の顔を見た。


「御坊ちゃまのこと…ご心配でいらっしゃいますね」千佳は静かに言った。

「はい…山本君…大丈夫なんですか…?」


千佳は、香織の心配に、静かに答えた。


「御坊ちゃまは…お元気でいらっしゃいます。しかし…まだ…ご家族の方によって…厳しく管理されておられまして…外部との連絡も…難しい状況でございます」


千佳の言葉に、香織は胸が締め付けられるような痛みを感じた。彼は、遠い国でも、まだ檻の中にいるのだろうか。外部との連絡も難しい。


「でも…御坊ちゃまは…蓬田様のことを…決して、忘れてはおられません」千佳は、そう言うと、香織の手を取り、香織の手に、何かを握らせた。


それは、以前千佳から渡された、小さな折りたたまれた紙と同じようなものだった。


「これは…?」香織は驚いた。


「御坊ちゃまからの…お伝言でございます」千佳は静かに言った。


「かい」からの伝言。香織は、期待と不安が入り混じり、紙を握りしめた。千佳は、香織に会釈をすると、静かに公園を出て行った。


香織は、公園のベンチに座り、八重が傍にいることを確認し、紙を開いた。そこには、「かい」の、聞き慣れた筆跡で、短いメッセージが書かれていた。


「蓬田さんへ。元気にしてる? もうすぐだよ、嘉位より」


以前千佳から渡されたメッセージと決定的に違った。香織は、メッセージを読みながら、涙が溢れ出した。


(山本君…)


止まらない涙とともに、「もうすぐだよ」 声となって香織の体を駆け巡った。


彼は、もうすぐ帰ってくる。


八重は、香織の様子を見て、優しく香織の背中から抱きしめてくれた。良かったねと言葉にださなくても伝わる、八重も涙が止まらない。

香織は、彼の帰りを信じて待つ。そして、彼が困難な状況を乗り越えて、再び彼と会える日が迫っていると


波乱は、まだ続いている。しかし、香織の心には、彼への愛と、彼との再会への希望が、強く灯っていた。そして、千佳という、彼との繋がりを保ってくれる存在がいること。それは、香織にとって、何よりも心強いことだった。





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