第九十一話:微かな電波と希望のメッセージ
山本嘉位が海外へ行ってしまってから、数ヶ月が経った。蓬田香織は、彼の声が録音されたキーホルダーと、千佳からのメッセージを支えに、彼の帰りを信じて待っていた。学校生活、八重との時間。すべてが、彼がいない寂しさを紛らわせるものだった。
秋が深まり、冬が近づいてくる。彼の姿を学校で見かけることはなかった。彼は、まだ海外にいるのだろうか。いつになったら、彼は戻ってくるのだろうか。
不安は尽きない。しかし、香織は、彼の声が録音されたキーホルダーを、肌身離さず持っていた。彼の声を聞くたびに、彼の存在を近くに感じることができた。
ある日の夜、香織は自室で勉強をしていた。スマートフォンは、彼のからの連絡を待つために、常に電源を入れてある。
その時、香織のスマートフォンの画面に、メッセージの通知が表示された。差出人は、見慣れない番号だった。もしかしたら、千佳からのメッセージだろうか。
香織は、期待と不安が入り混じり、メッセージを開いた。そこに書かれていたのは、短い、そして雑音混じりの文章だった。
「…と…たさん…聞…る…?…俺…」
それは、明らかに「かい」からのメッセージだった。彼の声のように、途切れ途切れで、雑音混じり。しかし、それは、紛れもない彼の声だった。
香織は、心臓がドクドクと鳴るのを感じた。彼から連絡が来た。遠い異国の地から。
すぐに返信しようとした。しかし、何をどう返信すればいいのか分からない。彼の状況を知りたい。無事を確認したい。
香織は、震える指で、メッセージを入力し始めた。
「…山本君…? 大丈夫ですか…?」
メッセージを送信し、香織は返信を待った。しかし、返信はなかった。彼のメッセージは、そこで途切れてしまっていた。
短いメッセージ。しかし、それは、香織にとって、何よりも大切なものだった。彼が、遠い国から、香織にメッセージを送ろうとしてくれた。それは、彼が、困難な状況の中でも、香織のことを諦めていないという証拠だ。
数日後、再び見慣れない番号からメッセージが届いた。今回も、短い、そして雑音混じりの文章だった。
「…ごめん…電波…悪くて…今…少しだけ…時間…」
「かい」からのメッセージだ。彼は、限られた時間の中で、香織にメッセージを送ってくれている。
香織は、すぐに返信した。彼の状況を知りたい。無事を確認したい。
「…山本君…無事ですか…? 心配しています…」
メッセージを送信し、香織は返信を待った。数分後、返信が来た。
「…大丈夫…じゃないけど…君のこと…いつも…思ってる…」
彼のメッセージを読みながら、香織の目から涙が溢れ出した。大丈夫じゃない。彼は、辛い状況に置かれている。しかし、香織のことを思ってくれている。
「…山本君…私も…いつも…思っています…」
香織は、震える指で返信した。
短いメッセージのやり取り。しかし、それは、香織と「かい」を繋ぐ、大切な糸だった。遠い国と日本。困難な状況。しかし、二人の心は繋がっている。
「…ありがとう…蓬田さん…君の声…聞けて…嬉しい…」
彼のメッセージは、そこで途切れた。また、連絡が難しくなったのだろう。
香織は、スマートフォンを胸に抱きしめた。彼の声。彼のメッセージ。それは、香織にとって、暗闇の中の一筋の光だった。
彼が、遠い国から、困難な状況の中でも、香織にメッセージを送ってくれた。それは、彼との繋がりが、まだ途切れていないこと。そして、彼との未来への希望があることを教えてくれた。
冬が近づいてくる。彼のいない冬。それは、寂しい季節だろう。しかし、香織は、彼の言葉と、あの微かな電波に希望を見出し、彼の帰りを信じて待つ。そして、いつか、彼と再び会える日が来ることを願っている。
波乱は、まだ終わっていない。しかし、二人の愛は、距離という新たな壁に立ち向かうことになるだろう。そして、その壁を乗り越えた時、二人の愛は、さらに強く、確かなものになるだろう。
(つづく)




