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第九十話:遠い空の下の苦闘

山本嘉位やまもと かいは、遠い異国の地で、御曹司としての重圧と、蓬田香織よもぎだ かおりへの想いの間で苦悩していた。父親からの厳しい管理、婚約者との形式的な付き合い、そして、香織との連絡が取れない焦り。すべてが、彼に重くのしかかる。


彼は、形式的な婚約者と共に、海外の関連会社を視察するという名目で、この国に来ていた。しかし、それは、彼を香織から引き離すための、父親の策略だった。滞在中も、彼の行動は厳しく管理されており、自由に外部と連絡を取ることはできない。スマートフォンは没収され、インターネットの使用も制限されている。


唯一の希望は、千佳ちかだ。千佳は、どうにかして香織と連絡を取ってくれている。そして、香織の様子を、千佳を通して聞くことができる。


ある日、「かい」は、千佳からの短いメッセージを受け取った。それは、香織が、彼の家の近くの公園まで来て、彼に会おうとしてくれたこと。そして、彼からのメッセージを受け取って、泣いていたこと。


香織が、自分のために、そんなにも心を痛めてくれている。その事実を知り、「かい」の心臓は締め付けられる。しかし、同時に、香織への愛おしさが募る。


「…蓬田さん…」


「かい」は、遠い日本の空を見上げた。同じ空の下に、香織がいる。しかし、二人の間には、海と、そして、彼の家の壁が立ちはだかっている。


彼は、香織に、自分の本当の気持ちを伝えたい。婚約者のこと。そして、この海外行きが、彼の意志ではないこと。すべてを話したい。しかし、それも叶わない。


千佳は、彼の状況を理解し、どうにかして香織と連絡を取る手段を見つけようとしてくれている。彼女は、彼の忠実なメイドであり、そして、彼の香織への想いを理解してくれる、ただ一人の味方だった。


「かい」は、この困難な状況を乗り越えなければならないと思った。香織との未来のために。彼の幸せのために。


海外での滞在は、形式的な付き合いと、退屈な視察の繰り返しだった。婚約者との関係も、ビジネス上のパートナーのようなものだ。彼女は、彼の家の事情を理解しており、この結婚が政略結婚であることを知っている。しかし、彼女もまた、彼の家の期待に応えなければならない立場なのだろう。


彼は、婚約者との間に、心の繋がりを感じることはない。彼の心は、常に香織のことだけを思っている。


ある夜、「かい」は、千佳からのメッセージを受け取った。それは、香織が、彼の声が録音されたキーホルダーを大切に持っていること。そして、彼の帰りを信じて待っていること。


そのメッセージを読みながら、「かい」の目から涙が溢れ出した。香織は、こんなにも困難な状況でも、彼のことを信じて待っていてくれる。それは、彼にとって、何よりも心強いことだった。


「ありがとう、蓬田さん…! 必ず…必ず…君の元へ…戻るから…!」


「かい」は、遠い日本の空に向かって、心の中で香織に誓った。この海外での苦闘は、いつまで続くのだろうか。しかし、彼は、諦めない。香織との再会を信じて、彼は、この困難な状況を乗り越えていく。


御曹司の孤独な戦いは、遠い異国の地で続いていた。そして、その戦いの先に、彼は再び、香織という光を取り戻すことができるのだろうか。

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