表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

83/340

第八十三話:御曹司の檻

山本嘉位やまもと かいからの電話が父親によって切られた後、彼の日常は一変した。自宅に戻った「かい」は、父親から厳しい叱責を受けた。香織かおりとの関係について、そして、夏の海辺への旅行計画について、すべてを知られていたのだ。


「一体、何を考えているんだ、嘉位! あのような娘と、何をしていた!? そして、夏の旅行計画だと!? 許さん!」


父親の怒鳴り声が、お屋敷に響き渡る。「かい」は、父親の剣幕に、何も言い返すことができなかった。彼の父親は、御曹司である「かい」に、山本家の将来に関わる重要な役割を期待しており、彼の個人的な感情や恋愛には、一切の自由を認めていなかった。特に、香織のような、山本家とは全く縁のない「地味な娘」との関係など、もっての外だった。


「お前には、もうすぐ婚約者ができる。分かっているだろう! その相手は、お前にはふさわしい家柄の娘だ! その結婚が、山本家にとって、どれだけ重要なことか、理解しているのか!?」


父親は、「かい」の婚約者のこと、そして、それが山本家と、もう一つの名家との間で決められた、政略結婚のようなものであることを改めて「かい」に突きつけた。


「あの娘との関係は、今すぐ終わらせろ。二度とあの娘と会うことは許さん!」


父親は、「かい」からスマートフォンを取り上げた。そして、外出も厳しく制限された。「かい」は、お屋敷という、金色の檻の中に閉じ込められてしまったかのようだった。


千佳ちかは、静かにその様子を見守っていた。彼女は、「かい」の苦しみを理解していた。彼が、御曹司としての立場と、香織への愛の間で、深く苦悩していることを。


夜になり、「かい」は自室に一人閉じこもっていた。スマートフォンがない。香織に連絡することができない。彼女は、彼のことをどれだけ心配しているだろうか。そして、夏の海辺への旅行。約束は果たせなくなってしまうのだろうか。


窓の外は真っ暗だ。お屋敷は静まり返っている。しかし、「かい」の心の中は、嵐が吹き荒れていた。父親からの圧力、婚約者のこと、そして、香織のこと。すべてが、彼に重くのしかかる。


彼は、香織に会いたい。彼女の顔を見て、彼女の声を聞きたい。彼女に、今の状況を説明したい。しかし、それも叶わない。


千佳が、静かに「かい」の部屋に入ってきた。千佳は、「かい」の様子を見て、何も言わずに彼の傍に座った。


「千佳さん…」と「かい」は掠れた声で言った。「俺…どうすればいいんだ…」


千佳は、静かに「かい」の背中をさすった。


「お坊ちゃま…今は…耐える時かと存じます」千佳は静かに言った。「お坊ちゃまの…お気持ちを、諦めてはなりませぬ」


千佳は、ポケットから、小さな紙切れを取り出した。それは、手書きのメモだった。そこには、香織の電話番号が書かれていた。


「これは…」と「かい」は驚いた。


「蓬田様に…何か、お伝えになりたいことがございましたら…」千佳は静かに言った。


千佳は、香織に会って、今の状況を伝えてくれたのだろうか。あるいは、香織から、何かメッセージを受け取ってくれたのだろうか。


「千佳さん…ありがとう…!」


「かい」の瞳に、希望の光が宿った。スマートフォンはない。しかし、香織の電話番号がある。もしかしたら、家の電話から、こっそり連絡することができるかもしれない。


御曹司の金色の檻は、彼を閉じ込めることはできても、彼の香織への想いを消し去ることはできない。千佳の優しさは、彼の心を強く支えてくれた。


波乱は、まだ終わっていない。しかし、「かい」は、香織との繋がりを諦めてはいなかった。そして、その繋がりを、再び手に入れるために、戦う覚悟を決めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ