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第八十二話:嵐の予感と閉ざされた扉

山本嘉位やまもと かいからの電話が、彼の父親らしき人物の怒鳴り声で一方的に切られた後、蓬田香織よもぎだ かおりは、スマートフォンを握りしめたまま、呆然としていた。彼の父親の声。そして、「一体何を話しているんだ!?」という言葉。それは、彼の家族が、香織との関係に気づき始めた、あるいは、何か疑っているということを明確に示唆していた。


不安と恐怖が、香織の心を支配する。彼の父親は、なぜあんなにも怒っていたのだろうか。彼の家の事情が緊迫しているというのは、このことだったのだろうか。


香織は、すぐに「かい」にメッセージを送ろうとした。大丈夫かと聞きたかった。彼の状況を知りたかった。しかし、何をどう送ればいいのか分からない。彼の父親が傍にいるのかもしれない。迂闊なメッセージを送れば、彼をさらに危険な状況に追い込んでしまうかもしれない。


香織は、メッセージを入力しようとして、指を止めた。彼の安全を考えると、今は、彼からの連絡を待つしかないのかもしれない。


しかし、時間だけが過ぎていく。彼からの連絡は、一向に来なかった。不安は募るばかりだ。彼に何かあったのだろうか。父親に、香織との関係について問い詰められているのだろうか。あるいは、外出を禁止されてしまったのだろうか。


夏の海辺への旅行まで、あと数日。彼と二人きりで過ごすはずだった、大切な時間。それが、彼の家の事情によって、危うくなっている。


香織は、彼のくれたキーホルダーを手に取った。小さなスマートフォンの形をした、あの特別なアイテム。これは、彼との秘密の繋がりを示すものだった。もしかしたら、このキーホルダーで、彼と連絡が取れるかもしれない。しかし、メッセージを送る機能があることは知っているが、電話をかける機能があるのかは分からない。それに、もし彼が、家族によって厳しく管理されているとしたら、キーホルダーでの連絡も危険かもしれない。


香織は、キーホルダーを握りしめたまま、ベッドに横になった。不安で、眠ることができない。彼の顔、声、そして、彼が抱えている苦しみ。すべてが、香織の頭の中で繰り返される。


翌日、学校に行くのが怖かった。彼の姿を見かけることはなかった。彼の席は、空席だった。彼の姿がないことに、香織は少しだけ安堵したが、同時に、胸の奥には、重くのしかかる不安があった。


八重やえは、香織の様子がいつもと違うことに気づいていた。放課後、八重は香織に「かおり、大丈夫? 山本嘉位のこと、何か知ってる?」と心配そうに尋ねた。


香織は、八重に、昨夜、彼からの電話が彼の父親に切られたこと、そして、彼から連絡が来ないことを話した。


八重は、香織の話を聞いて、顔色を変えた。


「マジで!? 山本嘉位のお父さんって…あの山本財閥の…!? やばいじゃん…」


八重も、事態の大きさに気づいたようだった。


「でもさ、かおり、山本嘉位のこと、心配だよね…何か、できることないかな…」


八重の優しさに、香織は胸が熱くなる。しかし、自分たちに何ができるのだろうか。彼の父親に、直接何かを言うことなんてできない。


夏休みまで、あとわずか。夏の海辺への旅行。それは、二人の愛が、新しい段階へと進む、大切なイベントだった。しかし、そのイベントは、彼の家族の干渉によって、開催が危ぶまれている。


彼からの連絡は、一向に来ない。彼の世界は、香織には見えない、閉ざされた扉の向こうにある。香織は、その閉ざされた扉の前で、不安と無力感に打ちひしがれていた。夏の嵐は、すぐそこまで来ている。そして、その嵐は、二人の愛を、根こそぎ奪い去ってしまうかもしれない。




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