第八十話:夏の気配と未来への扉
桜井さんと佐伯麗華からの攻撃を、山本嘉位の容赦ない反撃によって一時的に退けた蓬田香織。彼の強さと、自分を守ってくれる姿勢に、香織は改めて彼への愛を深めた。
夏休みまで、あとわずかとなった。夏の海辺への旅行。それは、二人の愛が、新しい段階へと進む、特別なイベントだ。香織の心臓は、期待と、そして少しの緊張でドキドキと鳴っていた。
学校では、桜井さんと佐伯さんは、香織と「かい」に直接的な嫌がらせをしてこなくなった。しかし、遠くから向けられる冷たい視線や、周りの生徒たちのひそひそ話は、相変わらず香織を不安にさせる。彼女たちは、諦めていない。何か、次の手を考えているのかもしれない。
ある日の放課後、香織は裏門で「かい」に会った。夏の海辺への旅行について、具体的な話を始めた。
「ねぇ、蓬田さん。海辺のホテル、予約したよ。綺麗なところで、二人きりでゆっくり過ごせると思う」
「かい」の声は、どこか嬉しそうだった。彼の言葉を聞いていると、夏の海辺が、さらに楽しみになってくる。
「あ、あの…ありがとうございます…」香織は顔を赤らめる。
「かい」は香織の手を取り、優しく握りしめた。
「夏休み、蓬田さんと二人きりで過ごせるのが、今から待ちきれないよ」
彼の言葉に、香織の心臓がドキドキと鳴る。彼も、夏の海辺での時間を、香織と同じように楽しみにしているのだ。
「ねぇ、蓬田さん。夏の海辺で…僕たちの関係を、もっと特別なものにしたいって言ったでしょう?」
「かい」は、香織の瞳を真っ直ぐ見つめた。その瞳には、香織への深い愛と、そして、未来への希望が宿っている。
「…あの…」香織は言葉を探す。「…はい…」
「かい」は、香織が頷いたのを見て、嬉しそうに微笑んだ。そして、香織を優しく抱きしめた。
「ありがとう、蓬田さん…! 僕は…蓬田さんのすべてを受け止めたいと思ってる。そして…僕のすべてを、蓬田さんに受け止めてほしいと思ってる」
彼の言葉の意味を、香織は理解した。それは、「大人の関係」へと進むということ。不安は尽きないけれど、彼への愛おしい気持ちと、彼をもっと知りたい、彼に自分のすべてを委ねたいという気持ちが、香織の心の中で大きくなっていた。
「ねぇ、蓬田さん。もし、将来、色々な困難が僕たちの前に立ちはだかったとしても…僕と一緒に、乗り越えていってほしい。どんなことがあっても、蓬田さんの傍にいたい。そして…蓬田さんの傍にいてほしいんだ」
「かい」の声は、真剣だった。彼は、二人の未来を、真剣に考えている。
「…はい…私も…山本君と一緒に…」香織は、涙声で言った。「…一緒に、乗り越えていきたい…」
「ありがとう…!」
「かい」は、感極まったように香織を強く抱きしめた。夏の海辺。それは、二人の愛が、新しい段階へと進む、特別な場所になるだろう。そして、それは、二人の未来への扉を開く、重要な一歩になるだろう。
波乱は、まだ終わっていない。しかし、二人の愛は、この困難な状況の中で、さらに強く、確かなものになっていく。夏の予感は、甘いだけではない。それは、二人の愛が試される、波乱の夏への序曲を奏で始めていた。




