第七十九話:彼の反撃と深まる愛
山本嘉位は、蓬田香織が桜井さんや佐伯麗華から嫌がらせを受けていることを知り、怒りに震えていた。彼の大切な人が、自分との関係ゆえに傷つけられている。それは、彼にとって、許しがたいことだった。
その日の放課後、「かい」は桜井さんと佐伯さんを呼び出した。学校の裏庭。人目につかない場所。そこには、「かい」と桜井さん、佐伯さんの三人だけがいた。
「桜井さん、佐伯さん。昼休みのこと、聞きました」
「かい」の声は、静かだったが、その中に含まれる怒りは、二人に十分伝わってくるほどだった。
桜井さんは、顔を青ざめながらも、「な、なんのこと…」と誤魔化そうとする。
しかし、佐伯さんは、フッと冷たい微笑みを浮かべた。「あら、嘉位様。何を怒っていらっしゃるのかしら? ただ、嘉位様が、あの方と本気で付き合うわけがない、という真実を申し上げただけでございますわ」
佐伯さんの言葉に、「かい」の怒りが頂点に達した。
「真実? 君たちが、何を勝手に決めつけている! 僕が好きなのは、蓬田さんだけだ! 彼女を傷つけるような真似は、絶対に許さない!」
「かい」の怒鳴り声に、佐伯さんは少し怯んだようだったが、すぐに笑顔に戻った。
「嘉位様。現実をご覧になった方がよろしいわ。嘉位様には、嘉位様にふさわしい方がいらっしゃるのですから」
佐伯さんは、婚約者のことを言っているのだろう。
「かい」は、佐伯さんの言葉に反論しようとしたが、言葉が出てこなかった。婚約者のこと。それは、彼の弱点だった。
しかし、「かい」は、すぐに気持ちを切り替えた。彼の目的は、彼女たちを黙らせること。そして、香織を守ることだ。
「佐伯さん。君の家のこと、知ってるよ。君のお父さんが、僕の家の会社に、多額の借金をしていることも」
「かい」の声は、冷たかった。佐伯さんの顔から、笑顔が消えた。彼女は、顔を青ざめながら、「な、何を…」と呟いた。
「もし、君が、これ以上蓬田さんに何かするようなことがあれば…君のお父さんの会社、どうなるか分からないよ」
「かい」は、容赦なく佐伯さんに突きつけた。それは、彼の世界の、影の部分だった。御曹司である彼にしかできない、容赦のない反撃。
佐伯さんは、顔を真っ青にし、何も言えなくなった。桜井さんも、佐伯さんの様子を見て、怯えている。
「二度と、蓬田さんに近づくな。もし、また何かするようなことがあれば…今度は、容赦しない」
「かい」は、二人を強く睨みつけ、背を向けた。
その日の放課後、香織は裏門で「かい」に会った。「かい」は、昼休みの出来事について、香織に謝った。そして、桜井さんと佐伯さんに話したことを、香織に伝えた。佐伯さんの家の借金のこと。それを、彼女への牽制として使ったこと。
香織は、彼の言葉を聞いて、少しだけ驚いた。彼の、容赦のない一面。それは、彼の世界がどれほど厳しいものであるのかを物語っていた。
「ごめんね、蓬田さん。こんなやり方しかできなくて…でも、蓬田さんを守るためには…」
「かい」は、苦しそうな表情になった。彼は、香織を自分の世界の影の部分に巻き込んでしまったことを、後悔しているようだった。
「大丈夫だよ、山本君…」香織は、「かい」の手を取り、優しく握りしめた。彼の傍にいるということは、彼の世界の光だけでなく、影も受け入れるということなのだろう。
「あの…山本君…ありがとう…」香織は、勇気を出して、彼に感謝の気持ちを伝えた。彼が、自分のために、あんなにも容赦のない反撃をしてくれたこと。
「ありがとう…」と「かい」は優しく微笑んだ。
そして、「かい」は香織を優しく抱きしめた。放課後の学校の裏門。彼の腕の中で、香織は安心し、そして、彼への愛おしさが深まっていくのを感じた。彼の強さ、優しさ、そして、彼の抱える苦しみ。すべてが、香織の心を惹きつける。
桜井さんと佐伯さんからの見えない攻撃は、一時的に収まるだろう。しかし、楓という存在は、まだ潜んでいる。そして、彼の家の事情。波乱は、まだ終わっていない。しかし、二人の愛は、この困難な状況の中で、さらに強く、確かなものになっていく。




