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第七十八話:校舎の視線と見えない攻撃

夏の海辺への期待が高まる一方で、学校では、蓬田香織よもぎだ かおり山本嘉位やまもと かいの関係に対する周囲の視線が、ますます強くなっていた。昇降口に貼り出された写真の衝撃は大きく、二人の関係は、学園中の噂となっていた。


香織は、廊下を歩くだけで、生徒たちのひそひそ話が聞こえてくるような気がした。「ねぇ、あの地味な子と山本君のこと、知ってる?」「マジで付き合ってるらしいよ…」「信じられない…」好奇心と、そして香織に対する侮蔑や羨望の視線。


特に、桜井さんと佐伯麗華さえき れいかからの視線は、香織を不安にさせた。二人は、香織と目が合うと、冷たい微笑みを浮かべたり、意味深な視線を投げかけたりする。それは、香織に対する明確な敵意の表れだった。


ある日の昼休み、香織が八重やえと一緒に食堂で昼食を食べていると、近くのテーブルに座っていた桜井さんと佐伯さんが、意図的に聞こえるように、香織たちの悪口を言い始めた。


「ねぇ、麗華。あの地味な子ってさ、山本君のこと、本気にしてるのかしらね?」桜井さんが、嘲るような口調で言った。

「あら、そうなんですか? ふふ、嘉位様が、あの方と本気で付き合うわけないでしょう? ただの気まぐれですわよ」佐伯さんが、冷たい声で答える。


その言葉に、香織の心臓が締め付けられるような痛みを感じた。ただの気まぐれ。それは、かえでからも言われた言葉だ。彼の、婚約者がいるという事実。それは、彼が香織と本気で付き合っているのではない、ということを示唆しているのだろうか。


八重は、怒りに震えていた。「なに言ってんのよ、あいつら! かおりのこと、気まぐれだなんて!」


八重は、立ち上がって反論しようとしたが、香織は八重の手を掴み、首を横に振った。ここで騒いでも、状況を悪化させるだけだ。


「大丈夫だよ、八重…」香織は、無理に笑顔を作った。大丈夫ではなかったけれど、八重に心配をかけたくなかった。


桜井さんと佐伯さんは、香織たちの様子を見て、満足そうに微笑んだ。彼女たちの目的は、香織を傷つけること。そして、香織の心を不安にさせることなのだ。


その日の放課後、香織は裏門で「かい」に会い、昼休みの出来事を話した。「かい」は、香織の話を聞いて、怒りに震えていた。


「あいつら…! よくも…!」


「かい」は、香織の手を取り、優しく握りしめた。


「ごめんね、蓬田さん。僕のせいで…こんな辛い思いをさせてしまって…」


「かい」は、桜井さんと佐伯さんにきちんと話すと言ってくれた。そして、香織に、何も心配しないでほしいと言ってくれた。


「でも…」と香織は不安そうに言った。「山本君の、婚約者のこと…それに、山本君の家のこと…」


「かい」は、香織の言葉を聞いて、少しだけ苦しそうな表情になった。婚約者のこと。彼の家のこと。それは、彼自身も、どうすることもできない、彼の家の事情に関わることなのだ。


「大丈夫だよ、蓬田さん。どんなことがあっても、僕たちの関係は、本物だ。そして、この夏、あの海辺で…僕たちの関係を、もっと特別なものにしたい」


彼の言葉は、香織の心に、希望の光を灯す。不安は消えないけれど、彼が一緒に乗り越えていこうと言ってくれるなら。


波乱は、学園の日常の中に、静かに、そして確実に入り込んできていた。それは、見えない攻撃のように、香織の心を蝕んでいく。しかし、香織は、彼との夏の約束を胸に、この困難に立ち向かう覚悟を決めていた。




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