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第七十五話:公になった絆と深まる夜

昇降口での山本嘉位やまもと かいの宣言は、学園全体に衝撃を与えた。地味な蓬田香織よもぎだ かおりが、あの山本嘉位の恋人だという事実。それは、瞬く間に学園中の噂となった。


香織は、彼の公衆の面前での宣言に、驚きと、そして心からの感動を覚えていた。彼は、周りの目を気にすることなく、自分たちの関係を公にしてくれたのだ。それは、香織にとって、何よりも心強い、彼の愛の証だった。


しかし、同時に、不安も大きくなった。自分たちの関係が公になったことで、これから、さらに多くの人々の目に晒されることになる。特に、桜井さんや佐伯麗華さえき れいか、そして、まだ直接的な行動には出ていない山本楓やまもと かえで。彼女たちが、黙っているはずがない。


放課後、香織は八重やえとカフェに行った。八重は、興奮冷めやらぬ様子で、今日の出来事について話していた。


「マジかー! かおり! あの山本嘉位が、みんなの前でかおりのこと、大切な人だって言っちゃうとか! やばすぎるでしょ!」


八重は、香織の肩を揺さぶりながら、興奮気味に言う。香織は顔を赤らめながら、「う、うん…」と答えるのが精一杯だった。


「でもさ、あれで、桜井さんとか、あの転校生、完全に黙っちゃうだろうね! ま、あの山本嘉位に、あんな風に言われたら、何もできないって!」


八重は、ライバルたちが諦めるだろうと思っていたようだが、香織は、そう簡単にはいかないだろうと感じていた。特に、佐伯さんの、あの執着した視線。


その日の夜、「かい」から電話がかかってきた。


「蓬田さん! 今日は、ごめんね。僕のせいで、怖い思いをさせてしまって…」


「かい」の声は、優しさに満ちていた。


「でも…これで、僕たちの関係は、隠す必要がなくなった。そして…僕が、蓬田さんのこと、どれだけ大切に思っているか、みんなに分かってもらえたと思う」


彼の言葉に、香織は胸が熱くなるのを感じた。


「あのね、蓬田さん。今日、君に話したいことがたくさんあるんだ。もしよかったら、これから…会えないかな?」


夜の密会。学校での公になった関係とは裏腹に、夜の密会は、二人の秘密の愛を深める時間だった。香織は、少し迷ってから、彼の誘いを受け入れた。


「…はい…」


夜になり、香織は「かい」の運転する車で、彼の秘密の場所、海が見える丘へと向かった。夜の丘は、静かで、そして二人の愛を包み込むような雰囲気がある。


丘の上に座り、夜空を見上げる。満月が輝き、無数の星が瞬いている。波の音が、二人の間に流れる静寂を優しく包み込む。


「あのね、蓬田さん。この夏、一緒に、あの海辺に行こうって約束したでしょう?」


「かい」の声は、どこか甘く、そして真剣だった。


「あの場所で…蓬田さんと、もっと、深い関係になりたいと思ってる」


彼の言葉に、香織の心臓がドキドキと鳴る。深い関係。それは、「大人の関係」へと進むということなのだろうか。


「…あの…」香織は言葉を探す。


「無理にとは言わない。でも…もし、蓬田さんも同じ気持ちなら…この夏、あの海辺で、僕たちの関係を、もっと特別なものにしたい」


「かい」は、香織の手を取り、優しく握りしめた。彼の温かい手に、香織の心は熱くなっていく。


「…はい…」香織は、頷くのが精一杯だった。それは、彼への信頼と、彼と共に未来へ進んでいきたいという、香織なりの決意だった。


「ありがとう…!」


「かい」は、感極まったように香織を抱きしめた。彼の温かい腕の中で、香織は、これまでの不安や悩みが溶けていくのを感じた。


夜空の下で交わされる抱擁と、未来への誓い。二人の愛は、この夜、さらに深く、そして特別なものへと進んでいく。それは、夏の海辺での、新たな始まりを予感させるものだった。


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