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第七十四話:彼の怒りと固い絆

昇降口に貼り出された、蓬田香織よもぎだ かおり山本嘉位やまもと かいの抱き合っている写真と、嘲るような文章。その場に居合わせた生徒たちのざわめきの中、「かい」は怒りを露わにした。


「…これ…誰がやったんだ…!」


「かい」の声は、低く、そして怒りに満ちていた。彼の瞳は、桜井さんと佐伯麗華さえき れいかの方を向いている。二人の顔から、得意げな笑みが消え、少し怯んだような表情になった。


「かい」は、二人の元へまっすぐ向かっていく。周りの生徒たちは、そのただならぬ雰囲気に、静まり返る。


「桜井さん…佐伯さん…これ、君たちがやったのか?」


「かい」の声は、静かだったが、その中に含まれる怒りは、誰にでも伝わってくるほどだった。


桜井さんは、顔を青ざめながらも、強気に反論しようとする。「な、なんのこと…」


しかし、佐伯さんは、フッと冷たい微笑みを浮かべた。「あら、嘉位様。何を怒っていらっしゃるのかしら? ただ、真実を皆さんに知っていただいただけでございますわ」


佐伯さんの言葉に、「かい」の怒りが頂点に達した。彼は、佐伯さんの肩に手をかけ、強く睨みつけた。


「真実? 何が真実だ! 君たちが、勝手に人のプライベートを晒して、面白いと思っているのか!?」


「かい」の怒鳴り声に、佐伯さんは少し怯んだようだったが、すぐに笑顔に戻った。


「嘉位様。あの方と親しくしていらっしゃるのは、嘉位様のためになりませんわ。早く、あの方のことを諦めて、嘉位様には嘉位様にふさわしい方がいらっしゃることを、認められた方がよろしいわ」


佐伯さんは、香織の方をちらりと見ながら言った。その視線は、香織に対する侮蔑と、そして「かい」を自分だけのものにしようとする強い執着を示していた。


「ふざけるな!」


「かい」は、怒りに震えながら、佐伯さんの肩から手を離した。そして、香織の元へ駆け寄った。


「蓬田さん…ごめん…僕のせいで…」


「かい」は、香織の手を取り、優しく握りしめた。香織は、彼の温かい手に、少しだけ安堵した。周りの視線が突き刺さる。恥ずかしさと、そして、彼に迷惑をかけてしまったという思いで、香織は俯いた。


「大丈夫だよ、蓬田さん。何も心配しないで。僕が傍にいるから」


「かい」は、香織の手を握ったまま、周りの生徒たちに向かって言った。その声は、先ほどの怒りに満ちた声とは違い、優しく、そして力強かった。


「僕と蓬田さんは、付き合っています。僕が、心から愛している、大切な人です」


彼の言葉に、周りの生徒たちは息を呑んだ。学園のプリンスである山本嘉位が、公衆の面前で、地味な蓬田香織のことを「心から愛している、大切な人」だと宣言したのだ。


桜井さんと佐伯さんは、顔を青ざめて立ち尽くしている。彼女たちの策略は、香織を貶めるどころか、二人の関係を公にし、そして「かい」の香織への想いの強さを証明する形になってしまったのだ。


八重は、香織の隣で、感動と驚きで目を丸くしていた。


「かい」は、香織の手を握ったまま、桜井さんと佐伯さんの方を向き、冷たい視線で言った。


「君たちがやったことは、絶対に許さない。覚悟しておけ」


彼の言葉は、二人に明確な警告を突きつけた。そして、「かい」は香織の手を引き、昇降口を出て行った。周りの生徒たちは、驚きと混乱の中で、二人の後ろ姿を見送ることしかできなかった。


波乱は、二人の秘密を公開してしまった。しかし、それは同時に、二人の絆を公にし、そして、「かい」の香織への想いの強さを証明するものとなった。これから、二人は、この公開された関係の中で、さらに大きな波乱に立ち向かうことになるだろう。

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