第七十三話:仕組まれた罠と公開された秘密
夏の海辺への約束を胸に、蓬田香織は、山本嘉位と共に、迫りくる波乱に立ち向かう覚悟を決めた。桜井さんと佐伯麗華が何か企んでいることを知っていたが、それがいつ、どのように仕掛けられるのかは分からなかった。
ある日の放課後、香織が八重と一緒に昇降口へ向かっていると、数人の女子生徒がざわざわと何かを話しているのが聞こえてきた。
「ねぇ、聞いた? あの地味な子と山本君のこと…」
「えー! マジで!? なんか、信じられないんだけど!」
香織は、自分のことだと直感的に悟った。周りの生徒たちの視線が、香織に集まっているような気がした。
不安になりながらも、昇降口へ向かうと、そこに、一枚の紙が貼り出されているのが見えた。多くの生徒たちが、その紙の周りに集まっている。
「何だろう…?」
香織は、八重と一緒にその紙に近づいていく。そして、そこに書かれている内容を見て、香織は息を呑んだ。
それは、香織と「かい」が、学校の裏門近くの木陰で抱き合っている写真だった。写真には、二人の姿がはっきりと映っている。そして、その写真の下には、こう書かれていた。
「和井田学園高等部のプリンス、山本嘉位くんと、地味な蓬田香織さんの、衝撃スクープ! 放課後、二人きりで一体何を…?」
その写真と文章を見た瞬間、香織の頭の中が真っ白になった。二人の秘密の場所での、秘密の時間。それが、白日の下に晒されてしまったのだ。
周りの生徒たちのざわめきが、香織の耳に届いてくる。「マジかよ…」「あの地味な子が…」「山本君、こんな子と…?」好奇心と、そして香織に対する侮蔑の視線。
香織は、その場から逃げ出したかった。しかし、足が動かない。恥ずかしさと、そして、彼に迷惑をかけてしまったという思いで、香織は立ち尽くすしかなかった。
八重が、香織の隣で怒りに震えているのが分かった。「なにこれ! 誰がこんなこと!」
その時、八重の視線が、昇降口の隅にいる二人の女子生徒に向けられた。桜井さんと佐伯さんだ。二人は、香織たちの様子を見て、冷たい微笑みを浮かべている。彼女たちが、これを仕組んだのだ。
香織は、桜井さんと佐伯さんの方を見た。二人は、香織と目が合うと、フッと鼻で笑った。その姿は、香織に明確な勝利宣言をしているかのようだった。
「山本嘉位と付き合ってるなんて、あなたには、分不相応なのよ」
佐伯さんの声が、香織の心に響いた。そして、その言葉は、楓から言われた言葉と重なる。
香織は、心が締め付けられるような痛みを感じた。二人の秘密が、公開されてしまった。そして、それは、桜井さんと佐伯さんの策略だった。これから、どんな波乱が待ち受けているのだろうか。
その時、ざわめきの中を掻き分けて、一人の男子生徒が香織たちの元へやってきた。山本嘉位だ。彼は、昇降口の貼り紙を見て、怒りに震えているようだった。
「…これ…誰がやったんだ…!」
「かい」の声は、低く、そして怒りに満ちていた。彼の瞳は、桜井さんと佐伯さんの方を向いている。二人の顔から、笑みが消えた。
波乱は、すでに始まっている。そして、それは、香織が想像していたよりも、ずっと大きなものになる予感。二人の秘密は、白日の下に晒され、彼らの関係は、試されることになるだろう。




