第七十二話:ライバルの策略と彼の ・・・・・
桜井さんと佐伯麗華が自分たちの関係について話しているのを偶然耳にしてしまった蓬田香織は、不安と恐怖で胸がいっぱいだった。二人の間には、すでに見えない敵意が存在している。そして、彼女たちは、自分たちの関係を壊そうと、何か企んでいるのかもしれない。
その日の放課後、いつもの裏門で山本嘉位に会った時、香織は今日の出来事を彼に話すべきかどうか迷った。彼の負担になりたくない。しかし、この不安な気持ちを一人で抱え込むのも辛かった。
「蓬田さん! ごめん、待った?」
「かい」は、香織の顔を見て、何かを察したのだろうか。彼は、香織の手を取り、優しく握りしめた。
「ねぇ、蓬田さん。何か、辛いことでもあった?」
彼の優しい言葉に、香織の心は温かくなる。香織は、意を決して、今日の放課後、桜井さんと佐伯さんが話しているのを偶然聞いてしまったこと、そして、二人が自分たちの関係について何か企んでいるらしいことを、「かい」に話した。
「かい」は、香織の話を真剣な表情で聞いていた。そして、香織が話し終えると、深くため息をついた。
「そうか…桜井さんと、佐伯さんが…」
彼の声は、どこか困惑しているようだった。彼は、桜井さんと佐伯さんが手を組むとは思っていなかったのかもしれない。
「ごめんね、蓬田さん。僕のせいで、辛い思いをさせてしまって…」
「かい」は、香織の手を強く握りしめた。
「佐伯さんは…以前も言ったけど、僕の幼馴染で、家の繋がりもあるから、少し、僕のことに執着しているところがあるんだ。桜井さんは…僕のことは、友達だと思ってると思うんだけど…」
「かい」は、桜井さんと佐伯さんについて、香織に説明しようとする。しかし、彼の言葉は、どこか歯切れが悪かった。それは、彼自身も、彼女たちの行動の真意を完全に理解できていないことを示唆しているようだった。
「でも…大丈夫だよ、蓬田さん」と「かい」は香織の瞳を真っ直ぐ見つめた。「彼女たちが何を企んでいようと、僕が好きなのは、蓬田さん、君だけだ。僕たちの関係を、誰にも壊させない」
彼の真剣な言葉に、香織の心臓は温かくなる。不安は消えないけれど、彼が一緒に乗り越えていこうと言ってくれるなら。
「きっと、これから、色々なことが起こると思う。君にとって、辛いこと、不安になること…」と「かい」は続けた。「でも、どんな時でも、僕の傍にいてほしい。僕のこと、信じてほしいんだ」
彼の言葉は、香織の心に深く響いた。信じる。彼を信じよう。
「…はい…」香織は、頷くのが精一杯だった。
「ありがとう」と「かい」は優しく微笑むと、香織を優しく抱きしめた。放課後の学校の裏門。誰にも見つからない、二人だけの秘密の場所で交わされる抱擁は、香織の心を強くする。
「この夏、二人で海に行こう。誰にも邪魔されない、二人だけの場所で。そこで、蓬田さんと…もっと、深い関係になりたいと思ってる」
「かい」の声は、香織の耳元で甘く響く。夏の海辺。それは、香織にとって、希望の光だった。
「だから…それまで、どんなことがあっても、僕たちの関係を、守り抜こう」
彼の言葉は、香織の心に、決意を固めさせた。桜井さんと佐伯さん。そして、楓。これから、どんな波乱が待ち受けているだろうか。しかし、彼と一緒に乗り越えていける。そう思うと、どんな困難にも立ち向かえるような気がした。
波乱は、すでに始まっている。しかし、香織は、彼の隣で、共に立ち向かう覚悟を決めた。




