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第六十九話:楓の影と見えない圧力

山本嘉位やまもと かいと秘密の関係を続けながら、蓬田香織よもぎだ かおりは、彼の妹である山本楓やまもと かえでの存在を常に意識していた。楓は、二人の関係を壊そうとしている。そして、彼女は、香織が想像もできないような手段を使ってくるかもしれない。


ある日、香織のクラスに、見慣れない女子生徒が転校してきた。彼女は、容姿端麗で、お嬢様のような雰囲気を持っていた。クラスメイトたちは、転校生の話題で持ちきりになった。


転校生の名前は、佐伯麗華さえき れいか。彼女は、自己紹介の時、はっきりとした声で言った。「山本嘉位さんとは、幼い頃からの知り合いですの。彼には、いつもお世話になっております」


その言葉を聞いた瞬間、香織の心臓がドクンと跳ねた。「かい」の幼馴染。そして、彼に「いつもお世話になっております」。それは、単なる友達以上の関係を示唆しているのだろうか。


昼休みになり、佐伯さんはすぐに「かい」の周りに集まっている生徒たちの輪に入っていった。そして、「かい」に親しげに話しかける。桜井さんよりも、さらに積極的に、そして自然に「かい」の傍にいる。


香織は、その光景を食堂の隅から見ていた。佐伯さんの存在感は圧倒的で、桜井さんでさえ、少し影が薄くなっているように見えた。


「ねぇ、かおり、あの転校生、山本嘉位のこと、知ってるらしいよ?」八重やえが香織に話しかける。

「うん…自己紹介で言ってたね…」香織は曖昧に答える。


八重は、香織の様子がいつもと違うことに気づいたようだ。八重は、佐伯さんと「かい」の様子を見て、何かを察したようだった。


放課後になり、香織はいつものように裏門で「かい」と会った。今日の佐伯さんのこと、そして彼女の存在が、香織を不安にさせていることを話すべきか迷った。


「蓬田さん、今日はありがとう」


「かい」は、香織の顔を見て、何かを察したのだろうか。彼は、香織の手を取り、優しく握りしめた。


「ねぇ、蓬田さん。何か、気になることでもあった?」


彼の優しい言葉に、香織は心を許し、佐伯さんのことを話した。転校生のこと、そして、彼女が「かい」の幼馴染で、彼に「いつもお世話になっている」と言っていたこと。


「かい」は、香織の話を真剣に聞いていた。そして、少し困ったような表情になった。


「佐伯さん…転校してきたんだ…知らなかった…」


知らなかった? 香織は少し意外に思った。「かい」ほどの人物なら、転校生のことも把握していると思っていたからだ。


「佐伯さんとは、幼い頃からの知り合いだよ。彼女のお家と、僕の家は…少し、繋がりがあって…」


「かい」は、佐伯さんとの関係について、香織に説明しようとする。しかし、彼の言葉は、どこか歯切れが悪かった。それは、何か、香織には分からない複雑な事情があることを示唆しているようだった。


「彼女は…少し、僕のことに…執着しているというか…」


「かい」の言葉に、香織は戸惑う。執着? それは、彼の妹である楓と同じような感情なのだろうか。


「だから…蓬田さんに、佐伯さんのことで、不安な思いをさせてしまうかもしれない。でも…」


「かい」は、香織の手を強く握りしめた。


「僕が好きなのは、蓬田さん、君だけだ。佐伯さんのことも、桜井さんのことも、楓のことも…関係ない。僕が一緒にいたいのは、蓬田さんだけだ」


彼の真剣な言葉に、香織の心は温かくなる。彼を信じたい。彼の言葉を信じよう。しかし、佐伯さんの存在は、香織の心に新たな不安の影を落とした。彼女もまた、楓と同じように、二人の関係を邪魔しようとしてくるのだろうか。


波乱は、次々と香織の前に立ちはだかる。それは、彼との愛を試す、見えない圧力のように感じられた。


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