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第六十八話:日常の風景と秘密の合図

雨上がりの誓いを胸に、蓬田香織よもぎだ かおりは再び日常の学校生活に戻った。山本嘉位やまもと かいも、学校に顔を出すようになった。彼の姿を見た時、香織は少しだけ緊張したが、彼はいつものように香織に優しく微笑みかけた。


学校では、二人は周りの目を気にして、 オープンに話すことは少ない。しかし、授業中や休み時間、食堂などで、視線が合うと、お互いに小さく微笑み合う。それは、他の誰にも分からない、二人だけの秘密の合図だ。その短いアイコンタクトだけで、香織の心は満たされる。


クラスメイトたちは、香織と「かい」の間に何かあったことを薄々感じ取っているようだが、二人が オープンに何かを話すことはないので、確信は持てないようだ。


桜井さんの存在は、相変わらず香織を不安にさせる。彼女は、「かい」の隣にいることが多く、楽しそうに話している。その様子を見ていると、香織の心にチクリとした痛みが走る。しかし、香織は、彼の言葉を信じている。彼が好きなのは、自分だけだと。


昼休みになり、香織は八重やえと一緒に食堂へ向かった。食堂は、いつも通り賑わっている。「かい」たちのいつものテーブルを見つけると、桜井さんが「かい」に寄り添うように座っているのが見えた。二人は楽しそうに話している。


香織は、心が締め付けられるような痛みを感じる。しかし、その時、「かい」が香織の視線に気づいたようだ。彼は、桜井さんと話しながらも、香織の方を見て、小さく、そして誰にも気づかれないように、香織にだけ分かる合図を送った。


それは、彼と香織が出会った入学式の日に、彼が香織にぶつかった際に、香織が思わず彼の胸を掴んでしまった、あの仕草を模倣した、小さな、しかし意味深な合図だった。まるで、「あの時の衝撃を、今も覚えているよ」「君に出会って、僕の世界は変わったんだ」と伝えているかのようだ。


その合図を見た瞬間、香織の心臓は大きく跳ねた。彼の言葉、彼の視線、そして、二人だけの秘密の合図。それは、彼が、今も香織のことをどれだけ大切に思っているのかを物語っていた。


香織は、顔が熱くなるのを感じながら、小さく、彼にだけ分かるように、頷いた。


昼食中、香織は八重と話しながらも、どこか上の空だった。彼の秘密の合図が、香織の頭の中で繰り返される。それは、周りの生徒たちや、桜井さんの存在、そして楓の存在といった不安を、一時的に忘れさせてくれる、彼との繋がりの証だった。


放課後になり、香織は八重に「ちょっと寄り道して帰るね」と言い残し、学校の裏門へと向かった。いつもの、二人だけの秘密の待ち合わせ場所。彼が待っているだろうか。


裏門近くで、彼の姿を見つける。彼は、香織に気づくと、優しい笑顔で香織を迎え入れた。


「蓬田さん!」


香織は、彼の元へ駆け寄る。彼の傍にいるだけで、学校での不安も、周りの視線も、すべて忘れられるような気がした。


二人の秘密の時間は、香織にとって、何よりも大切で、かけがえのない時間だった。そして、この時間の積み重ねが、きっと二人の関係を、さらに強く、そして確かなものにしてくれると信じていた。

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