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第六十六話:雨の中の再会と隠しきれない想い

山本嘉位やまもと かいからの「もう一度だけ、会ってくれないか」というメッセージを受け取った蓬田香織よもぎだ かおりは、彼に会うことを決意した。不安はあったが、彼の真剣な願いに応えたいと思った。


待ち合わせ場所は、学校近くの、雨の日でも大丈夫な、屋根のある小さな広場だった。約束の日、空は厚い雲に覆われ、今にも雨が降り出しそうだった。香織は、少し早めに待ち合わせ場所に着いた。


広場には、まだ彼の姿はない。香織は、雨宿りをしながら、彼のことを待った。時間が経つにつれて、雨が降り始めた。ポツポツと降り出した雨は、やがて激しくなった。


香織は、雨宿りをしながら、彼のことを考える。彼は、本当に来てくれるだろうか。婚約者のこと。そして、彼の家のこと。彼が抱える苦しみ。すべてを理解できるわけではないけれど、彼に会って、彼の言葉を聞きたい。


雨は激しさを増し、広場には香織一人だけになった。もしかしたら、彼は来てくれないのかもしれない。そう思った時、香織の目に、雨の中を走ってくる人影が映った。山本嘉位だ。


彼は、雨に濡れながら、香織の元へ駆け寄ってきた。彼の顔は、雨に濡れて、どこか切なそうに見えた。


「蓬田さん! ごめん、待った?」


「い、いえ…」香織は、彼の姿を見て、胸がいっぱいになった。彼は、雨の中を、香織に会うために来てくれたのだ。


「ずぶ濡れじゃないか…」と「かい」は、香織の肩を抱き寄せ、自分の上着を香織にかけた。彼の体温が、香織に伝わる。雨の冷たさの中で、彼の温かさが、香織の心を温める。


「ごめんね、雨の中呼び出してしまって…」香織は、申し訳なさそうに言った。


「いいんだよ。蓬田さんに会えるなら、どんな雨だって平気だよ」と「かい」は優しく微笑んだ。


二人は、屋根の下で雨宿りをしながら、話を始めた。「かい」は、改めて、婚約者のことについて、香織に話した。彼の家の事情、そして、彼自身がこの結婚を望んでいないこと。


「これは…僕の意志じゃないんだ。家の存続のために、受け入れなければならないことなんだ」


「かい」の声は、苦しさに満ちていた。彼は、御曹司という立場から逃れることができない。


「でも…僕は…蓬田さんのことが、大好きだ。婚約者がいるとか、そんなこと関係なく…君と一緒にいたいんだ」


「かい」は、香織の手を取り、強く握りしめた。雨の音だけが、二人の間に響く。


「蓬田さんに、辛い思いをさせてしまうかもしれない。危険な思いをさせてしまうかもしれない。でも…それでも、僕と一緒にいてほしいんだ。僕の傍にいてほしいんだ」


彼の言葉は、香織の心を揺さぶる。彼の苦しみ、そして、彼が自分をどれだけ愛しているのか。


香織は、彼の瞳を真っ直ぐ見つめた。そして、雨に濡れた彼の頬に、そっと手を伸ばした。


「…山本君…」


「かい」は、香織の手に、自分の頬を寄せた。彼の温かい体温が、香織の指先から伝わる。


「僕のこと…信じてくれる…?」


「かい」の声は、切実な願いを含んでいた。


香織は、少し迷ってから、こくりと頷いた。信じたい。彼の言葉を信じたい。彼の苦しみを理解したい。


「ありがとう…!」


「かい」は、感極まったように香織を抱きしめた。雨の音だけが響く広場で、二人は強く抱きしめ合った。


「僕、絶対に蓬田さんを幸せにするから。どんなことがあっても、守るから」


彼の言葉は、雨音にかき消されそうになりながらも、香織の心に深く響いた。


雨はまだ降り続いている。しかし、香織の心の中には、温かい光が灯った。彼の言葉を信じよう。彼と一緒に、この困難を乗り越えていこう。


雨の中の再会は、二人の関係にとって、新たな始まりの合図だった。波乱は、まだ終わっていない。しかし、二人の絆は、この雨によって、さらに強く結ばれたように感じられた。


(つづく)

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