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第六十四話:学校の空気と見えない壁

山本嘉位やまもと かいに「無理です」と告げ、事実上の別れを告げてから数日。蓬田香織よもぎだ かおりは、心を閉ざしたまま学校生活を送っていた。彼の姿を学校で見かけることはなかった。彼は、まだ学校を休んでいるのだろうか。それとも、香織に会いたくないから、学校に来ていないのだろうか。彼の姿が見えないことに、香織は少しだけ安堵したが、同時に、胸の奥には、常に彼の存在が影を落としていた。


教室の空気も、どこかぎこちない。香織と「かい」の間に何かが起こったことを、クラスメイトたちは薄々感じ取っているのかもしれない。特に、八重やえは、香織のことをいつも以上に気にかけてくれている。


昼休みになり、香織は八重と一緒に食堂へ向かった。食堂は、いつも通り賑わっている。しかし、香織の視線は、無意識のうちに「かい」たちのいつものテーブルを探してしまう。


彼の班のメンバーはいる。しかし、彼の姿はない。桜井さんの姿も見えない。二人は、どこに行ったのだろうか。


香織は、八重と話しながらも、上の空だった。彼のことが、頭から離れない。


その日の放課後、香織は八重に誘われて、一緒に買い物に行くことになった。学校を出て、街中を歩く。周りの景色は、何も変わらないのに、香織の心は、重く沈んでいた。


買い物をしている間も、八重は香織の様子を気にかけている。


「かおり、無理しないでね。しんどかったら、いつでも言って」八重が優しく声をかける。

「ありがとう、八重…」


八重の優しさに、香織の心は少しだけ温かくなる。


街中を歩いていると、偶然にも、山本楓やまもと かえでとすれ違った。楓は、何人かの取り巻きらしき人物と一緒にいた。香織と目が合った瞬間、楓はフッと冷たい微笑みを浮かべた。その視線には、明確な優越感と、そして香織に対する侮蔑が宿っているように香織には感じられた。


楓は、香織の前で立ち止まり、香織の周りをゆっくりと回りながら言った。


「あら、蓬田さん。お兄様とは、もうお会いになっていらっしゃらないのかしら?」


楓の声は、嘲るような響きを帯びていた。香織の心臓が、ドクンと大きく跳ねる。


「…あの…」香織は言葉を探すが、何も出てこない。


「ふふ、やっぱりね。お兄様も、あなたのことを、すぐに飽きてしまわれたんですわ」楓は、満足そうに微笑んだ。「だって、そうでしょう? お兄様には、あなたのような、地味な方よりも、もっとふさわしい方がいらっしゃるのですから」


楓の言葉は、香織の心を深く傷つけた。地味な方。ふさわしい方。それは、彼女自身のことなのだろうか。あるいは、彼の婚約者のことなのだろうか。


「ねぇ、蓬田さん。お兄様は、もうあなたのことなど、気にされていらっしゃいませんわよ。お兄様のことは、もう諦めて、自分の世界に戻られた方が、あなたのためだと思いますわ」


楓は、香織の耳元で囁くと、香織の肩をそっと叩いた。その手は、まるで香織を突き放すかのように、冷たかった。


楓は、香織に背を向け、取り巻きたちと一緒に歩き去っていった。香織は、その場に一人残され、楓の言葉の意味を理解しようとしていた。諦めて。自分の世界に戻れ。


八重が、香織の傍に駆け寄ってきた。


「かおり! 大丈夫!? あの山本嘉位の妹、マジで最低!」八重は怒りを露わにした。


八重は、楓の言葉をすべて聞いていたのだろう。八重の優しさに、香織の目から涙が溢れそうになる。


「うん…なんか、私…もう、どうすればいいのか、分からない…」香織は、正直な気持ちを八重に打ち明けた。


楓の言葉は、香織の心に、深い傷を残した。彼は、本当に自分を諦めてしまったのだろうか。自分の世界に戻るべきなのだろうか。


二人の間には、見えない壁ができてしまった。そして、その壁は、楓という存在によって、さらに高くなろうとしている。


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