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第六十話:隠された真実と苦渋の選択

蓬田香織よもぎだ かおりは、親友の八重やえに励まされ、少しずつ心を落ち着かせていた。山本嘉位やまもと かいからのメッセージや電話を無視し続けていた香織だったが、八重に「話を聞く気があるなら、ちゃんと聞けばいい」と言われたことで、彼の言葉に耳を傾けるべきかと思い始めていた。


その日の放課後、香織が教室を出ようとした時、ドアの前で山本嘉位に待ち伏せされた。彼は、憔悴した様子で、香織の顔を見て、何かを言いたそうにしている。


「蓬田さん…お願いだ…少しだけ、話を聞いてくれないか…?」


彼の声は、切実な響きを帯びていた。香織は、彼の顔を見て、心が揺れる。彼の弁解を聞けば、また傷ついてしまうかもしれない。でも、このままでは、何も解決しない。


「…あの…」香織が言葉を探していると、八重が香織の隣に立ち、山本嘉位に向かって言った。


「山本嘉位。かおりが話聞いてもいいって言ってる。でも、ここで話すのはちょっと。場所を変えよう」


八重の登場に、「かい」は少し驚いたようだったが、すぐに安堵したような表情になった。八重がいてくれることで、香織も少しだけ安心した。


三人は、学校の近くにある、人通りの少ない公園へと移動した。公園のベンチに座り、三人の間に重い沈黙が流れる。


「かい」は、香織の顔を見て、深くため息をついた。そして、ゆっくりと話し始めた。


「あの…婚約者のこと…本当にごめん。隠していたわけじゃないんだ。ただ…どうやって話せばいいのか、分からなくて…」


「かい」は、彼の婚約者のことについて、香織に話し始めた。それは、彼の家の複雑な事情に関わることだった。彼の婚約者は、彼が自分で選んだ相手ではないこと。それは、彼の家と、もう一つの名家との間で決められた、政略結婚のようなものであること。そして、その結婚は、彼の家の存続に関わる、非常に重要なものであること。


「僕は…この結婚を、自分で止められる立場じゃないんだ。僕の家の存続のために…引き受けなければならないことなんだ」


「かい」の声は、苦しさに満ちていた。彼は、御曹司という立場から逃れることができない。家の存続のために、自分の気持ちを犠牲にしなければならない。


「だから…蓬田さんに、このことを知られたら、きっと離れていってしまうだろうと思って…怖くて、話せなかったんだ」


「かい」は、香織の顔を見つめ、涙声で言った。彼の苦しみは、香織にも伝わってくる。彼は、自分を選んでくれたけれど、彼の抱える問題は、あまりにも大きかったのだ。


「でも…僕は…蓬田さんのことが、大好きだ。婚約者がいるとか、そんなこと関係なく…君と一緒にいたいんだ」


「かい」は、香織の手を取り、強く握りしめた。


「この結婚は…僕の意志じゃない。だから…もしよかったら…蓬田さん…僕と一緒に、この困難を乗り越えてくれないか? 婚約者がいるという事実を、一緒に乗り越えて…」


「かい」は、香織に、非常に重い言葉を投げかけた。婚約者がいるという事実を乗り越える。それは、つまり、彼は婚約者がいるまま、香織と関係を続けていくということなのだろうか。それは、あまりにも危険なことだ。そして、香織自身も、傷つくことになるだろう。


八重は、二人のやり取りを静かに聞いていた。そして、香織の様子を見つめる。


香織は、混乱していた。彼の言葉を信じたい。彼の苦しみも理解できる。しかし、婚約者がいるという事実は、香織の心に深く突き刺さっている。そして、その事実を乗り越えるという彼の言葉は、香織にとって、あまりにも重すぎた。


これは、香織にとって、非常に苦渋の選択だった。彼の言葉を信じ、この危険な関係を続けていくのか。それとも、彼から離れ、傷つくことから逃れるのか。


公園のベンチで、香織は静かに悩んでいた。夕日が、香織の顔を赤く染める。これから、香織の人生は、大きく変わるのだろうか。それとも、このまま、平凡な日常に戻るのだろうか。

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