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第五十一話:教室の距離と放課後の予感

山本嘉位やまもと かいの家での出来事の後、蓬田香織よもぎだ かおりは、彼との関係が、単なる高校生の恋愛ではないことを痛感していた。彼の世界は、華やかで、そして波乱に満ちている。そして、その波乱の中心には、彼の妹であるかえでという存在がいる。


翌朝、学校で「かい」と顔を合わせた時、香織は少しだけ緊張した。昨夜の出来事を思い出し、彼の家の豪華さや、楓の冷たい視線を思い出してしまう。


しかし、「かい」は、いつものように香織に優しく微笑みかけた。その笑顔を見た瞬間、香織の心の緊張は少しだけ解けた。彼は、昨夜の出来事を引きずっていないようだ。あるいは、引きずっていたとしても、香織には見せないようにしているのだろうか。


教室に入ると、香織は自分の席に着いた。彼の席は、香織からは少し離れている。その距離が、香織を少しだけ安心させる。彼の周りには、すでに生徒たちが集まっている。そして、桜井さんの姿も見える。


授業中、香織は時折「かい」に視線を送った。彼は真面目に授業を受けている。しかし、休み時間になると、またすぐに彼の周りに人だかりができる。桜井さんも、彼に楽しそうに話しかけている。その様子を見ていると、香織の心に、またしても不安がよぎる。彼は、自分の恋人なのに。


昼休みになり、香織は八重やえと一緒に食堂へ向かった。八重は、昨夜の話を聞いてから、香織のことをいつも以上に気にかけてくれている。


「ねぇ、かおり、大丈夫? あの山本嘉位の妹のこと、まだ気にしてる?」八重が心配そうに尋ねる。

「う、ううん、大丈夫だよ…」香織は曖昧に答える。大丈夫ではない。気になる。彼の周りのライバルたちも、そして楓の存在も。


食堂で「かい」たちの班を見つけると、桜井さんが「かい」に寄り添うように座っているのが見えた。二人は楽しそうに話している。香織の心臓が、チクリと痛んだ。


八重は、香織の視線の先に気づき、何も言わずに香織の手を握った。その温かさが、香織の心を支えてくれる。


昼食後、香織はトイレに行くふりをして、こっそりと「かい」にメッセージを送ることにした。


「あの…放課後、少しだけ会えませんか…?」


メッセージを送信し、香織は返信を待つ。彼からの返信は、香織にとって、何よりも大切なものだった。


数分後、既読がついた。そして、すぐに返信が来た。


「もちろん! 嬉しいな。どこで会おうか?」


彼の返信に、香織の心臓は大きく跳ねた。放課後。彼と二人きりで会える。


「あの…学校の裏門近くで…」


いつもの、二人だけの秘密の待ち合わせ場所を指定する。


「わかった。放課後、そこで待ってるね」


彼のメッセージに、香織は安堵し、そして期待に胸を膨らませた。昨夜、彼の家で感じた不安は消えていない。しかし、彼に会える。彼と話せる。それだけで、香織は強くなれるような気がした。


午後の授業は、上の空だった。放課後のことを考えると、ドキドキが止まらない。彼とどんな話をするのだろうか。そして、彼からどんな言葉を聞けるのだろうか。


放課後になり、香織は八重に「ちょっと寄り道して帰るね」と言い残し、学校の裏門へと向かった。少し肌寒くなった風が、香織の髪を揺らす。


学校の裏門近くで、彼が待っていた。彼の姿を見つけた瞬間、香織の心は温かい幸福感で満たされる。


「蓬田さん!」


「かい」は香織に気づくと、優しい笑顔で香織を迎え入れた。香織は、彼の元へ駆け寄る。


彼の傍にいるだけで、楓のことも、桜井さんのことも、そして彼を取り巻く世界のことさえも、忘れられるような気がした。


放課後の、二人だけの時間。それは、香織にとって、何よりも大切で、かけがえのない時間だった。そして、この時間の積み重ねが、きっと二人の関係を、さらに強く、そして確かなものにしてくれると信じていた。


(つづく)

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