第四十九話:親友との夜と打ち明け話
山本嘉位の家での出来事の後、蓬田香織は、彼の世界に足を踏み入れたことの大きさと、そこに待ち受けるであろう困難を痛感していた。特に、彼の妹である楓から向けられた敵意は、香織の心に深く突き刺さっていた。
翌日、学校で八重と顔を合わせた時、香織は昨夜の出来事を話すべきかどうか迷った。八重には、いつも正直に話している。でも、彼の家のこと、楓のこと、そして楓から言われた言葉。それは、あまりにも現実離れしていて、そして、八重に話しても理解してもらえるだろうかという不安があった。
放課後になり、香織は八重と一緒にカフェに行った。いつものように、他愛のない会話をする。しかし、香織はどこか上の空だった。昨夜のことが、頭から離れない。
「かおり、どうしたの? なんか、昨日の夜から変だよ?」八重が香織の様子に気づき、心配そうに尋ねる。
「え? あ、ううん…なんでもないよ…」香織は慌てて誤魔化そうとする。
「絶対なんかあったでしょ! 顔色も悪いし、なんか悩んでる顔してる!」八重は香織の顔を覗き込む。
隠し通せない。八重には、すべてお見通しだ。香織は意を決して、昨夜、山本嘉位の家に行ったこと、そこで妹の楓に会ったこと、そして楓から言われたことを、八重に打ち明けることにした。
「実はね…昨日の夜、山本君の家に行ったんだ…」
香織は、山本家のお屋敷の豪華さ、そしてそこで楓に会ったこと、楓から言われた言葉、「あなたのような、地味な女の子に、汚されてはいけないのよ」という言葉を、八重に話した。
八重は、香織の話を真剣な表情で聞いていた。そして、香織が話し終えると、八重は怒ったような声で言った。
「はぁ!? なにそれ! あの山本嘉位の妹、超感じ悪いじゃん! なによ、地味な女の子に汚されてはいけない、ですって? かおりのこと、何も知らないくせに!」
八重は、まるで自分のことのように怒ってくれた。その優しさに、香織の心は救われる。
「うん…なんか、私…山本君の世界にいるのが、怖くなっちゃって…」香織は正直な気持ちを話した。彼の世界の華やかさ、そして、そこに存在する複雑さや、人々の持つ特別な雰囲気。それは、香織の知っている日常とはあまりにもかけ離れていた。
「怖いって…そりゃ、大豪邸でしょう!、そんなお屋敷で、あんな言われ方したら、誰だって怖くなるって! でもさ、かおり、山本嘉位はどうだったの? かおりのこと、守ってくれた?」
「うん…山本君は…大丈夫だよ、怖がらなくてもいい、僕が守るって言ってくれた…」
「だろ!? そうだよ、かおり! 大事なのは、山本嘉位がかおりのこと、どう思ってるかだよ! あの妹が何言ったって、山本嘉位がかおりを選んでくれたんだから!」
八重の力強い言葉に、香織は勇気をもらった。そうだ。大切なのは、山本君が自分のことをどう思っているかだ。彼の言葉を信じよう。
「でもさ…山本君の妹、結構やばそうじゃん? これから、色々ちょっかい出してくるかもよ?」八重は心配そうに言う。
「うん…私も、そんな気がする…」
「まぁ、大丈夫だよ! もし何かあったら、いつでも私に言いな! かおりのこと、私が守ってやるから!」八重は力強く香織の肩を叩いた。
八重の優しさと力強さに、香織の心は温かくなった。彼だけでなく、八重も自分を支えてくれている。この困難を乗り越えていけるかもしれない。
八重との話で、香織の心は少しだけ軽くなった。しかし、楓の存在が、これから二人の関係にどんな波乱をもたらすのか。そして、「かい」の世界に足を踏み入れたことで、香織の日常がどう変わっていくのか。不安は尽きない。
カフェを出て、家路につく。夕焼け空が、香織の心を染める。これから、どんな未来が待っているのだろうか。香織は、期待と不安が入り混じった複雑な感情を抱えながら、歩き始めた。




