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第四十六話:対峙する兄妹と揺れる心

山本嘉位やまもと かいが応接間に戻ったことで、山本楓やまもと かえで蓬田香織よもぎだ かおりの間に流れていた張り詰めた空気は、さらに複雑なものになった。「かい」は、楓が香織に対して敵意を持っていることに気づき、妹に注意を促す。


「楓、失礼なことはやめろ」


「あら、失礼だなんて。ただ、お兄様が、どんな方とお付き合いをされているのか、気になっただけですわ」楓は、香織に挑戦的な視線を向けながら、甘えた声で「かい」に寄り添う。


「かい」は、楓の態度に苛立ちを感じているようだった。彼は、楓の手を優しく、しかし毅然と引き剥がした。


「楓、蓬田さんには、後できちんと挨拶をさせるから。今は、部屋に戻っていてくれ」


「えー! いやですわ、お兄様! せっかくお兄様に会いに来たんですのに!」楓は駄々をこねるように「かい」に抱きつこうとする。


しかし、「かい」は楓をしっかりと制止した。


「楓。聞け。蓬田さんは、僕にとって大切な人だ。だから、失礼なことは絶対に許さない」


「かい」の真剣な声に、楓は一瞬だけ怯んだようだった。しかし、すぐに冷たい微笑みを浮かべた。


「お兄様の大切な方…ですか。ふふ、楽しみですわね。一体、いつまで大切でいらっしゃるのかしら」


楓は、意味深な言葉を残し、香織に一瞥をくれてから、応接間を出て行った。その視線は、香織に明確な宣戦布告をしているかのようだった。


楓が出て行った後、応接間には「かい」と香織だけが残された。重い沈黙が、部屋を支配する。香織は、楓の言葉と態度に、心が凍り付いたように感じていた。


「ごめんね、蓬田さん。楓が、突然来てしまって…」


「かい」は、申し訳なさそうに香織に言った。


「い、いえ…大丈夫です…」香織は震える声で答えた。大丈夫ではなかった。楓の存在感と、彼女から向けられた敵意は、香織の心を深く傷つけた。


「楓は…少し、特別なところがあるんだ。小さい頃から、僕にすごく懐いていて…」


「かい」は、妹について香織に説明しようとする。しかし、香織は、楓の言葉が頭の中をぐるぐると駆け巡っていて、彼の言葉が耳に入ってこなかった。


「あなたのような、地味な女の子に、汚されてはいけないのよ」


楓の冷たい声が、香織の心を締め付ける。自分は、彼の世界の、そして彼自身を「汚してしまう」存在なのだろうか。


「蓬田さん? どうしたの? 顔色が悪いよ…」


「かい」が香織の様子に気づき、心配そうに香織の顔を覗き込む。


「あ、あの…私…やっぱり、帰ります…」香織は、その場から逃げ出したくなった。このお屋敷にいるのが、辛い。彼の世界の重さに、耐えられそうにない。


「えっ!? どうして? まだ何も話してないのに…」


「かい」は慌てて香織の手を取った。「ごめん、楓のせいで…」


「違います…!」香織は首を横に振った。「楓さんのせいじゃなくて…私…やっぱり、山本君の世界にいるのが…怖くて…」


香織は、正直な気持ちを打ち明けた。彼の世界は、あまりにも華やかで、そして複雑だ。自分のような地味な人間が、彼の世界に足を踏み入れてはいけないのではないか。


「蓬田さん…」


「かい」は、香織の言葉を聞いて、苦しそうな表情になった。彼は、香織が抱えている不安や恐れに気づいていた。


「大丈夫だよ、蓬田さん。怖がらなくてもいいんだ。僕が、蓬田さんの傍にいるから。どんなことがあっても、僕が守るから」


「かい」は、香織の手を強く握りしめた。彼の温かい手に、香織の心は少しだけ温かくなる。しかし、楓の冷たい視線と言葉が、香織の心を離れない。


この波乱の予感は、単なる予感ではないのかもしれない。これから、二人の関係は、楓によって、そして彼を取り巻く様々な問題によって、試されることになるだろう。


(つづく)

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