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第三九話:夜の再会と美少女の影

修学旅行三日目の夜。ホテルに戻った蓬田香織よもぎだ かおりは、夕食を済ませ、部屋の班員たちが寝静まるのを待った。夜間スマートフォン使用可能時間が始まり、山本嘉位やまもと かいからメッセージが来ていないか確認する。


「蓬田さん! 今、電話大丈夫?」


「はい、大丈夫です」と返信すると、すぐに彼から電話がかかってきた。


「もしもし? 蓬田さん? 夜遅くに、ごめんね」

「いえ…」


「かい」の声は、電話越しでも香織の心を温かくする。彼は、昼間のメッセージのやり取りの続きから話し始めた。


「あのね、昼間、メッセージくれて、すごく嬉しかったんだ。蓬田さんも、僕に会いたいって思ってくれてるんだなって」

「う、うん…」香織は顔を赤らめる。


「あの後、蓬田さんのこと、ずっと考えてたんだ。早く夜にならないかなって」

「私も…」


二人の間に流れる空気は、甘く、そして愛おしかった。しかし、香織の心には、昼間に見た美少女の姿が影を落としていた。


「あの…山本君…昼間、他の班とすれ違った時…」香織は、勇気を出して尋ねてみることにした。「…あの、山本君の隣にいた女の子…すごく、綺麗だね…」


「かい」は、香織の言葉に少しだけ沈黙した。そして、優しく答えた。


「ああ…彼女ね。同じ班の、桜井さんだよ」

「桜井さん…」


「桜井さんは、すごく明るくて、誰にでも優しくて…学年でも人気があるんだ」


「かい」は、桜井さんについて説明してくれた。彼の説明を聞いていると、桜井さんがどれほど素晴らしい女の子なのかが伝わってくる。そして、自分がいかに地味で平凡なのかを、改めて思い知らされる。


「あの…山本君は…桜井さんのこと、どう思ってるの…?」香織は、喉の奥で詰まりそうになりながら尋ねた。


「かい」は、香織の問いかけに、少しだけ困ったような表情になった。そして、優しく、しかしきっぱりと答えた。


「桜井さんは、大切な友達だよ。それ以上でも、それ以下でもない。僕が好きなのは…」


「かい」は、少し間を置いてから言った。


「蓬田さん、君だけだよ」


その言葉に、香織の心臓は大きく跳ねた。彼の真剣な声、そして、真っ直ぐな言葉。桜井さんに対する不安が、一瞬にして消え去った。


「でも…」香織は戸惑う。「山本君の周りには、たくさんの綺麗な女の子がいるのに…どうして、私なんかを…」


「かい」は、香織の言葉を聞いて、少しだけ寂しそうな表情になった。


「蓬田さんは、いつもそうやって、自分を卑下するんだね。でも、僕にとって、蓬田さんは、他の誰よりも特別なんだ」


「かい」は、香織のどこに惹かれたのか、改めて香織に語りかけた。彼の言葉は、香織の心を温かくし、彼への愛おしさを深めた。


電話での会話は続いた。しかし、修学旅行の夜は、限られている。


「ねぇ、蓬田さん…もしよかったら、今晩も…会えないかな…?」


「かい」の誘いに、香織の心臓は大きく跳ねた。また、彼と二人きりで会える。夜中の屋上。二人だけの秘密の場所。


「…はい…」


香織は、彼の誘いを受け入れた。彼に会いたい気持ちが、不安よりも大きかった。


「ありがとう! じゃあ、またキーホルダーで連絡するね。気を付けて来てね」


電話を切った後も、香織の胸のドキドキは止まらなかった。夜中の逢瀬。そして、そこで何が起こるのだろうか。彼への愛おしさと、少しの不安が入り混じり、香織の心はざわめいていた。しかし、彼は桜井さんのことを友達だと言ってくれた。彼が好きなのは、自分だけだと。その言葉が、香織の心を強く支えてくれた。

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