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第三六話:波乱の予兆と朝の別れ

月の光の下、屋上の片隅で、山本嘉位やまもと かい蓬田香織よもぎだ かおりは、情熱的な時間を過ごした。二人の体は触れ合い、心の距離も急速に縮まっていく。初めてのキスから始まり、彼の求めるように、香織もまた彼のすべてを受け入れようとしていた。


「ねぇ、蓬田さん…すごく、綺麗だよ…」


「かい」の声は、熱を帯びていた。彼は、香織の髪を撫で、顔を見つめる。香織は、恥ずかしさと、彼に求められることへの喜びで、顔を赤らめる。


二人の間に流れる空気は、熱く、そして甘美だった。しかし、その時、微かに、屋上への扉が開く音が聞こえたような気がした。


香織と「かい」は、同時に動きを止める。そして、物陰から、そっと扉の方を見る。


誰もいない。気のせいだったのだろうか。


二人はホッと胸をなで下ろすが、その瞬間、緊張が走った。いつ、誰かに見つかるか分からない。ここは、ホテルの屋上なのだ。


「まずい…誰か来ると危ない…」


「かい」の声が、少しだけ焦りを帯びる。せっかくの二人きりの時間だったのに。


「そろそろ、部屋に戻った方がいいかもしれない…」


香織は、名残惜しい気持ちで言った。彼ともっと一緒にいたい。このまま、朝まで彼の腕の中にいたい。しかし、見つかって問題になることだけは避けたかった。


「かい」は、香織の気持ちを察したのか、寂しそうな表情になった。


「そうだね…危険だ…」


彼は、香織を抱きしめる腕を緩める。香織は、彼の体温が離れていくのが寂しかった。


「ごめんね、せっかく一緒にいられたのに…」


「かい」は香織の頬にキスをした。


「でも、ありがとう。蓬田さんと、こんな時間を持てて、すごく嬉しかった」


「かい」は香織の手を取り、優しく握りしめた。そして、屋上への扉へと向かって歩き始めた。香織は、名残惜しい気持ちで、彼の隣を歩く。


屋上から廊下に戻り、エレベーターに乗る。エレベーターの中は静かで、二人の鼓動だけが聞こえるようだった。香織は、彼の隣にいるだけで、心が満たされるのを感じていた。


香織の部屋の前まで来ると、「かい」は立ち止まった。


「また、連絡するね。気を付けて」

「うん…山本君も」


「かい」は香織をもう一度優しく抱きしめた。そして、香織の部屋のドアを開け、香織が部屋に入るのを見送った。


部屋に戻った香織は、音を立てないようにベッドに入った。同じ部屋の子たちは、相変わらず寝息を立てている。香織は、布団の中で、彼との時間を思い出す。彼の温もり、彼のキス、そして彼の言葉。すべてが、香織の中で鮮やかに蘇る。


しかし、同時に、屋上での出来事や、彼の周りにいる他の女性たちの顔も脳裏をよぎる。彼の妹であるかえで、そして、修学旅行の班が同じだった美少女。彼と付き合うということは、彼女たちを含めた彼の世界と向き合うということなのだ。


修学旅行の夜。二人の関係は、大きく進展した。しかし、それは同時に、今後の波乱を予感させる出来事でもあった。香織は、彼との未来に期待を抱きながらも、不安を感じていた。


翌朝。修学旅行の三日目が始まった。朝食会場で「かい」と顔を合わせた時、二人は控えめに微笑み合った。周りの生徒たちには気づかれない、二人だけの秘密。


しかし、その日の班別行動中、香織は偶然、「かい」の班とすれ違った。彼の隣には、例の美少女がぴったりと寄り添っている。彼女が「かい」に話しかけ、楽しそうに笑っているのを見て、香織の心に、またしてもチクリとした痛みが走った。


彼への想いは、深まっている。しかし、彼を取り巻く環境は、香織にとって、まだまだ乗り越えなければならない大きな壁のように感じられた。修学旅行は、まだ終わっていない。そして、二人の物語は、これからさらなる波乱を迎えることになるだろう。


(つづく)

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