第三四話:月の下での再会
山本嘉位の温かい抱擁の中で、蓬田香織は安堵していた。夜中の屋上という非日常的な空間で、彼に会えたこと。それは、香織にとって、現実離れした出来事のように感じられた。
「寒いかったでしょ? ごめんね」
「かい」は香織を抱きしめたまま、優しく声をかける。そして、自分の羽織っていた薄手のジャケットを香織の肩にかけてくれた。彼の体温が、ジャケットを通して香織に伝わる。
「ありがとう…」香織は顔を赤らめながら呟いた。
「かい」は香織を抱きしめたまま、屋上の手すりにもたれかかった。夜空には満月が輝き、無数の星が瞬いている。街の明かりが遠くまで広がっており、昼間とは違う、幻想的な景色が目の前に広がっていた。
「ここ、綺麗でしょ? 誰にも邪魔されない、僕たちだけの場所」
「かい」の声は、どこか甘く、そして香織の心を溶かすような響きがあった。香織は、彼の胸に顔をうずめながら、静かに頷いた。
しばらくの間、二人は何も話さずに、ただ月の光の下で抱きしめ合っていた。彼の温もり、そして静かに響く彼の心臓の音。それが、香織にとって、何よりも心地よかった。
やがて、「かい」は香織を抱きしめる腕を少し緩め、香織の顔を覗き込んだ。月の光が、香織の顔を優しく照らす。
「蓬田さん…」
彼の声は、真剣な響きを帯びていた。香織は、彼の言葉を待つ。
「昨日の夜、ちゃんと考えてくれたかな? 僕との…その、付き合うこと…」
香織は顔を赤らめながら、こくりと頷いた。
「…はい…」
「本当に? 嬉しい…!」
「かい」は再び香織を抱きしめた。その抱擁は、先ほどよりも力強く、そして香織の心臓をドキドキさせる。
「ありがとう、蓬田さん…! 本当に嬉しいよ…!」
「かい」は香織の髪に顔をうずめ、深く息を吸い込んだ。彼の温かい吐息が、香織の首筋にかかる。香織の体は、彼の体温と彼の存在によって、熱くなっていくのを感じた。
「ねぇ、蓬田さん…キスしてもいいかな…?」
「かい」の声は、少しだけ震えているように聞こえた。その言葉に、香織の心臓は大きく跳ね上がった。キス。初めてのキス。
香織は何も言わずに、ただ彼の顔を見上げた。月の光に照らされた彼の顔は、真剣で、そして少しだけ切ない表情をしていた。
香織は、ゆっくりと目を閉じた。それは、彼への信頼と、彼に自分のすべてを委ねたいという、香織なりの意思表示だった。
「かい」は、香織が目を閉じたのを確認すると、ゆっくりと香織の顔に近づいていく。彼の吐息が、香織の唇にかかる。そして、柔らかく、温かい感触が、香織の唇に触れた。
初めてのキス。
それは、想像していたよりもずっと優しくて、そして香織の心の奥深くまで響き渡るような、特別なキスだった。彼の唇の温かさ、そして、彼のキスに応えようとする自分の唇の動き。すべてが、香織にとって、初めての経験だった。
月の光の下で交わされた初めてのキス。それは、二人の関係を、さらに深く、特別なものへと変えていく。
初キス!!! さて、今後はどのような展開に?




