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第三三話:夜に導かれし道

修学旅行二日目の夜。蓬田香織よもぎだ かおりは、部屋の班員たちが寝静まるのを待った。時計の針は、深夜零時を回っている。静寂の中、香織の心臓はドキドキと鳴っていた。これから、山本嘉位やまもと かいに会いに行く。秘密の逢瀬。


枕元に置いたスマートフォンは電源を切ってある。しかし、手に握りしめたキーホルダーは、微かに温かい。それは、彼との繋がりを示す、特別なアイテムだ。キーホルダーの小さな画面をオンにする。数字の0526を入力すると、画面にメッセージが表示された。


「このメッセージを受け取ったら、矢印の方向へ来て。ホテルの屋上。気を付けて」


屋上。昨夜、彼に告白された場所だ。香織は、再びあの場所で彼に会えることに、期待と少しの緊張を感じた。矢印は、上を指し示している。


香織は、音を立てないようにそっとベッドから抜け出した。体操服に着替え、羽織るものを持って、部屋のドアノブに手をかける。ゆっくりと、静かにドアを開ける。廊下は暗く、静まり返っている。月明かりが、非常口の表示をぼんやりと照らしているだけだ。


キーホルダーの矢印が示す方向へと、香織は慎重に歩き始めた。足音を立てないように、スリッパの裏を床に擦らないように。ホテルの廊下は長く、どこか不気味に感じられる。


エレベーターの前まで来ると、矢印は上を指している。エレベーターホールは薄暗く、誰もいない。香織は、他の階に止まらないように、屋上階のボタンだけを押す。エレベーターは静かに上昇していく。香織は、心臓の鼓動が耳の奥で響いているのを感じた。


屋上階に到着し、エレベーターを降りる。矢印は、屋上への扉を指し示している。扉の前まで来ると、香織は深呼吸をした。ここで、彼が待っている。


扉に手をかけ、ゆっくりと開ける。外の夜の空気と、潮の香りが流れ込んできた。屋上に出ると、昨夜と同じように、月の光が地上を照らしていた。風が、香織の髪を優しく揺らす。


屋上には、誰もいないように見えた。香織はキョロキョロとあたりを見回す。キーホルダーの矢印は、屋上の隅の方を指している。


矢印が示す方向へ歩いていくと、屋上の手すりの近くに、人影が見えた。山本嘉位だ。彼は、夜空を見上げながら、香織が来るのを待っていたようだ。


「…山本君…」


香織が小さく彼の名前を呼ぶと、「かい」は香織に気づき、こちらを振り返った。彼の顔に、安堵したような、そして優しい笑顔が浮かぶ。


「蓬田さん…! 来てくれたんだ…!」


「かい」は香織に駆け寄り、優しく抱きしめた。香織は、彼の温かい腕の中で、夜の冷たい空気を忘れる。


「ごめんね、こんな時間に呼び出して。でも、どうしても、蓬田さんと二人で話したかったんだ」


「かい」の声は、香織の耳元で優しく響く。香織は、彼の温かい抱擁の中で、何も言わずに頷いた。


月の光だけが二人を照らす屋上。そこは、彼と香織だけの、秘密の場所だった。修学旅行の夜に、二人の物語は、静かに、そして深く進んでいく。


期待してよいのでしょうか?

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