第1話 【一色】 将棋の王
王手、詰みですよ、詰み、やりようがないでしょう。
伯父さんたちを次々と撃破する天才ぶり、そう、僕の将棋の才能は逸脱していた。
幼いころから、読書に励み、難しい漢字などは、ネットでしらべ
あらすじと冒頭数ページ読めば、結末が読めてしまう
実にくだらない。そんな日々を送っていた。
推理小説でさえ、冒頭で、結果がわかってしまう。
書籍を読むのも飽きてきた。
小学校の読書感想文はいつも文部大臣賞を受賞。
冒頭でこの作者が何を伝えたいのかを逆手にとって、感想を書くだけである。
全編は斜め読みで十分であった。
一方で、おじいちゃんとの将棋は楽しかった。
ルールが決まっている。書籍とは違う。ルールに沿って勝たなくてはいけない。
将棋のルールを、読書に当てはめていくと、父とおじいちゃんも、僕には勝つことが出来なかった。
おじいちゃんが連れて行ってくれた、将棋会館で、多数の大人たちと勝負し、負けたことは無い。
始まる前、1手、3手で、勝敗が分かる、
負けるとわかるのであれば、どのように組み立てを変えれば、勝てるのかと
数百通りを予測し、撃破していった。
中等部では、将棋部に入ると、1年生で、3年生はおろか、先生も歯が立たない
1年生で全国大会をものにしていた。
一方で、運動はというと、これは別の次元の話。
まったくの運動音痴である。勉強はできるほうであるが、体育となると
行動は読めても、体がついてこないのである。
中等部、全国三連覇を成し遂げ、高等部へ進学。和井田学園である。
和井田学園でも将棋部に入り、1年生で全国を制覇していた。先輩たちも優秀であるが
その領域をはるかに上回っていた。部活の対戦相手はAI将棋でる、このAI将棋はなかなかの曲者であり
対戦がとても楽しく、自宅にパソコンを買ってもらい、AI将棋にはまり
オンライン対戦や、AI将棋とのオンライン対戦の配信をしていた。
SNSの将棋の世界では超が付く程の有名人である。天才高校棋士と。
雑誌にも掲載され、取材にも応じていた。
当然和井田学園の中でも、雑誌に掲載は話題になっており、天才と称されていたが
体育と保健体育は、からっきしで、成績がトップになることはなかった。
意味が解らない、保健体育、そんなもの覚えて何の価値があるのかと
まったくもって無関心であった。将棋そのものが、人生であると確信していた。
異性にはまるっきり、関心が無い。わけでもないが、やはり、盤の前に座ると
心頭滅却であり、盤の世界が無数の回路を示している。
そんなある日であった、山本財閥の御曹司、山本嘉位である。
僕もこの問題は、解けたのだが、解答用紙には、300文字を超えてしまっていた。
その説明を、彼がしてくれたのである。
嘉位
ゆっくりとわかりやすく、話し始めた
「問:1868年に勃発した鳥羽・伏見の戦いは、」
「旧幕府軍と新政府軍の間で起こった内戦の始まりであり、」
「明治維新の流れを決定づけた。」
「この戦いが起こった背景には複数の要因がある。」
「以下3つの要因に注目し、それぞれについて具体的に説明しなさい。」
「模範解答は」
「鳥羽・伏見の戦いは、旧幕府と薩長を中心とする新政府勢力との政治的対立が激化した結果である。」
「大政奉還後も旧幕府は実権を保持しようとし、」
「これに対し新政府側は王政復古を宣言して対抗した。」
「軍事面では、薩長は洋式兵制を導入し、最新の銃器を装備していたのに対し、」
「旧幕府軍は旧式の装備が中心で劣勢だった。」
「さらに、新政府軍は「錦の御旗」を掲げ、天皇の名のもとに戦う正統性を主張したことで、」
「旧幕府軍の士気を大きく下げた。」
「これらの要因が重なり、戦いは新政府軍の勝利に終わった。」
嘉位は、あたりを見渡して、理解できたようだと
「これで、300文字以内で要点がまとまります」
「そして、皆さん和井田の学生さんですから、お気づきだと思います」
「英訳し、ツアーコンダクターとして、日本の歴史、文化に興味がある外国人の方へ」
「英語で説明してみる、等を想像してください。既に英文で来ていると思います」
「つまり、コツは、300文字でどのように、相手に具体的に伝わるのか」
「言語を変えて、問題文、回答文も作ると、多言語も同時に習得できます」
「さらに、日本の視点を、世界から見た、日本に置き換える事により」
「世界史も同時に学べる、覚える事ができるわけです」
「この手法により、問題を解く時間を、極端に短くできます」
「そして、日本史だけの勉強が、多言語、世界史も同時に勉強ができ」
「学習時間の短縮にもつながります。」
「是非、今後ためしてください」
「ちょうど、チャイムですので、日直の方、これで終わりしましょう」
面白い、嘉位君。物凄く興味がわく、かっこよく、頭も良い、聞くところによるとU-15代表で
中学生の時に世界を制している、もちろん山本財閥の御曹司であることは十分にしっていたが
彼の説明に引き込まれていった。
世の中、頭の良い人は沢山いるのだろうな、彼と将棋の勝負をしたいとも思ったが
彼はスポーツマンで、野球こそが似合っている。そんな感じである。
いつも、嘉位君の周りには、だれかしら男女問わず人だかりが出来ている。
僕は、彼を尊敬のまなざしで見ている自分に、気が付いていた。
でも、譲れない、将棋では負けないと…。




