第二九五話 究極の音、究極の歌
不穏な空気が流れていた。成功したはずのミッションだった。
目黒川の氾濫は抑えられ、大横川の氾濫も抑えられ
資産は守られ、人的被害は無かったかのように思われていた。
しかし、現場は違っていた
作戦本部長
「エンジェルの集いが出した通り、目黒川の大氾濫、大横川の大氾濫は阻止出来ました」
「死傷者0です」
「民間人の被害はありません。一部、停電とガスの供給が止まっています。まもなく安全が確認できたら順次解放されます」
「水は通常通り使用可能です」
「一時的に品川で閉じ困られていた、エレベーターは救助済み」
「政府、都の協力により、優先的に活動できたことに、感謝申し上げます」
「以上が表、そう、表向きの報告になります」
作戦本部長は、少し、言葉を濁して、間をおいてから
「ただ、」
「ただし、」
「株式会社 八重」
「我々」
「隊員が戻ってきません2名。」
「駅に取り残されている連絡を受け、1名が救助に、4時間たっても連絡が無く、エンジェル追跡の最後の位置に、もう1名隊員を送りましたが、突如音信が途絶え手から2時間」
「現場には一般3名、女性70代2名。30代1名妊娠、38週との事、隊員2名音信がありません」
マシン室の一同に、衝撃が走った。既に、氾濫災害から解決したと思っていたからである。
嘉位はお屋敷に電話をしていた。
鬼教官
「社長、申し訳ない、現地に行きたいのですが、こちらは目黒川で対応が、あと3時間、いや2時間でなんとかします」
「私一人が行くにも、道路の泥を避けながらで、何とか一時間で行けます。社長行かせて下さい。部下を見殺しに等できません」
部隊長
「社長、大横川も3時間、いやあと2時間で、わたくしが直接行って、ここからであれば、1時間かかりません、行かせてください」
由良
「既に、6,7時間は経過している。要救助者の体力にも限界がある。」
「教官も、部隊長も疲労困憊です。許可出来ません」
「もう1度言います」
「許可出来ません」
「作戦本部長、教官、お忘れではないですか」
「本部長、お気づきですよね」
「隊員なら、いるじゃないですか、ここに」
「俺が行きます。」
嘉位
「もちろん、僕も行きます。」
連
「僕も行かせてください」
本部長
「社長が、それは、出来ません」
鬼教官
「確かに、常識を超えた運動能力は周知の事実、しかし、社長が自ら等」
由良は連を見て、何かを取り出し
「連、この5冊の本、5分で暗記できるか」
連
「もちろんです」
連は速攻で、パラパラとめくり
「終わりました」
なんと、5冊を1分丁度。
由良
「その3冊目の325ページに書いてあることは」
佐伯、桜井(そんなの出来るわけがない)
悟、光(いくら連君でも)
せんさん、かずき(この答が成否)
瞳、乙葉(由良君、行かせたくないのね。連君だけでも、ここに残ればと)
連
「書いてあるのは、2.5.2 INSARAGガイドライン 2回 → (休止) → 5回 → (休止) → 2回という独特のリズムは、偶発的な音や自然な物音と区別しやすく、明確な人間からの信号
佐伯、乙葉は(何のことだろう、しかし声に出そうとしても、出ないのである)
嘉位・由良(連は、僕たちと同じレベルに到達した、もう迷うことはない。)
3人は株式会社 八重の装備に着替え、そして御手洗会長のサングラスをつけ、嘉位は連に、エンジェルを渡した、
突然に、御屋敷から小早川達が来て、準備できたと告げる。
由良
「作戦本部長、聞こえますか」
「教官、社長だから現場に行くのです」
「会社の親が社長であるなら、親が動かないで、誰が子を助け出せますか」
鬼教官は胸が熱くなった。それは本部長も同じであった。
作戦本部長は涙を流して、それが答えであった。すすり泣く音が、エンジェル越しに聞こえていた。
嘉位(決意を新たにし)
「行くか」
由良(自然との戦い)
「よし」
連(認めてくれた、かいさん、ゆらさん)
「では、行きましょう」
楓(ポロリと涙がこぼれて)
「連、連は無理しなくて、良いのに」
八重(泣きながら)
「由良、由良、どうして、いつものように、言ってくれないの」
「由良、明日、結婚式なのよ」
「どうして、いつものように」
「問題ない」
「って言ってくれないの」
八重は号泣しながら、由良の胸を叩く
香織(信じる、信じる)気丈にふるまいながら
「嘉位なら、大丈夫、絶対にできる」
「嘉位、由良君、連君なら、成し遂げられる」
「だから、必ず、帰って来てね。待っているから」
嘉位・由良・連
「行ってくる」
そういうと、お仕えしている方のバギーの後部座席に乗って、出て行った。
香織と八重と楓は見送ったあと
香織は我慢していたものが、一気にあふれ出した
あの場で私が泣いてしまっては、嘉位は行くことが出来ないとわかっていたからである。
三人は肩を抱き寄せて、泣いた、泣いた、泣いた。
(大丈夫、大丈夫、大丈夫)
それを見ていた、瞳さん、乙葉、佐伯、桜井も、泣いていた。
外は雨は小降りになっていて、風は突風が吹いたり、止んだりである。
嘉位(自然は予期せぬ動きをする、人や物とは違う。予期せぬものを予期せねば)
由良(無事でいてくれ、誰一人として死なす事は出来ない)
連(必ず、助け出す)
河川は氾濫していないが、道路は泥水で、歩行、走行は困難であった。
バギーは旨く進むことが出来た。一刻も早く救助しなくてはならない。
三人は焦りが募った、絶対に誰も、死なせないと
バギーは門前仲町を目指すのであった
政府災害対策本部と、作戦本部長、せんさん、かずきの経過報告が続く
総理
「皆さまの年明けのシュミレーターで人的被災、死者を出さずにすみました」
「心よりお礼申し上げる」
「ところで、副社長様、いや、彼らは」
作戦本部長
「総理、目黒川、大横川の氾濫は阻止できました。死者ありません。経済損失もわずか、あと数字時間でライフラインも復帰できます」
「台風は太平洋側にそれ、この後は好天です」
「報告致します」
「隊員二名、行方不明、救助を求めた女性70代2名、30代1名、7時間、安否がわかっておりません」
国土交通大臣
「なんと、それなら、自衛隊の支援をさらに、都知事から」
せんさん
「まだ風があります、降下作戦は難しい。あの一体は昔ながらの家屋もあり、電柱が入り乱れている」
「又、道路はまだ泥水で、足場を捕られ、オフロード系でないと侵入が困難」
国土交通副大臣
「現場から近い、警察、いや、警察では災害に対する人命救助は、本筋ではない」
かずき
「御父さん、現場に株式会社 八重 社長、名前を出せば、御手洗 由良、山本 嘉位、豊田 連の3名が救助似向かっています」
国土交通副大臣
「かずきと同じように、大統領自由勲章の方か」
かずき
「はい、信じましょう。ハワイの奇跡と同じ、彼らは奇跡を起こす、既に現場に急行しています」
総理は声を低く、少し、涙腺が
「副社長様、由良君頼みなのか…」
作戦本部長
「現在のデータからすると、東陽町から南砂町当たりに、移動しているデータがあります」
「そこで食い止め救出します。」
そこで、一旦報告が終了した。
一方の現地に急行している嘉位達である
嘉位
「エンジェルが流されているのは、データ上、今も移動している、南砂町」
由良
「しかし、妊婦さん、おばあさんを二人つれてこの速度で移動できるか」
連
「全員流されている場合は、どうなのでしょう」
一同は、考えてはいけないことが、頭をよぎっていた。早く現場に行かなくては、
嘉位
「エンジェルの位置が二つ、バラバラなのが、これがつかめれば」
由良
「予期せぬ災害、自然災害から起こる、あらゆるケース。自然災害は予知できない、予測はできるが」
連
「ここの分岐点、時間的に、選ぶ方向次第では、手遅れに」
嘉位
「時間的な事を計算すると、要救助者は体力の限界を超えている、チャンスは1回のみ」
そしてマシーンルームでは
せんさん、かずきは再度シュミレーションを1000回実施し、
モニターを繰り返し、参照していた
悟、光もモニターを凝視しており、確かに、エンジェルが南砂町の方に流れて行った。
悟(おかしいよね、これ)
「1つは流れているけれど、もう1つは、静止している」
光(変だよ)
「うん。悟の言う通り、これ作戦本部長の言う南砂町、間違っていないかな?」
楓は、驚いて、経験よりも直観、知識で動くのと、知恵で動くのは根本が違うとお兄様が言っていた。
楓は大きな声で、
「せんさん、かずき君、動いていない方でもう1度、シュミレーションを」
せんさん
「わかった、それでやってみよう」
かずき
「1000回で、ロケーション、門前仲町駅固定、ライブデータ入力完了。開始」
すると、
瞳は何かを感じ取り、別のモニターのほうに動いて
同じく、乙葉も感じ取り、瞳と同じモニターの方に
瞳は、目を閉じて、何かを解読するかのように
乙葉も、息を止めて、目を閉じ
「かずき、今の所をもう1度、かなりゆっくりで、再生を」
瞳(ある、ある、あるのよ)
乙葉(目は閉じているが、見える、見える)
「二拍、空いて、五回。……それから二回」
瞳
「せん、もう1度」
せんさん、かずき、楓、佐伯、桜井、悟、光は
瞳さん、乙葉さんを見つめていた。
機械が沈黙した数秒を、瞳、乙葉は逃さなかった
瞳さん
「そこ!」
乙葉
「うん、そこ!」
せんさん、かずきは、意味が解らなかった、再生をさらにスローにし、瞳の見ているモニターに注視
楓(聞こえた、私にも、私も持っているのだから、絶対音感、しかし、この濁流や雨音、風の音の中、この音をききわけられるなんて、信じられない、瞳さん、乙葉ちゃん)
「2.5.2よ」
「ほら、さっき、由良が問いかけて、連が答えた、2.5.2」
瞳さん
「救難信号、生存信号」
乙葉
「そこに、居る、そこに、レスキューは入る」
かずきは音をデータにして、それを可視化し、キャプテン、副キャプテン、連に送った
嘉位
「EC受信」
「これは、」
由良
「EC受信」
「生存信号、ここだ」
連
「ここからなら、すぐだ、かずきさん、ありがとう、現場に急行します」
マシン室には
ばん!と激しい音が響いて、扉を叩いて、防音設備であるので届かぬ音が…
それに楓が反応し
開けると
香織と八重は祈り続けていたのであったが、
突然前に、
千佳
「奥様、行きましょう、現地に」
一夜
「楓お嬢様、早く」
執事の方
「八重様も外にあるのでお乗りください」
香織と八重は、え、千佳さん、一夜さん
楓(一夜来てくれたんだ)
八重
「せんさん、瞳さん、あとはお願いします。行ってきます」
3人は、千佳さん、一夜さん、執事のバギーにのり、門前仲町を目指したのであった
マシン室に居るせんさん
「悟君、光君、和井田学園野球部、最後の働きを、目に焼き付けてください。」
「キャプテン、副キャプテンを」
悟、光
「はい!」
楓は歌いだした、そう願いを込めて
そしてその歌に、瞳さん、乙葉も続き一緒に
楓は心で歌いながら、現地に向こう
3人の歌姫が、心を一つにして、奇跡と無事を祈って、歌う
瞳と乙葉
凛々しい姿で、マシンの音が消えさえるような、美しく、力と勇気が枠、希望にあふれた歌声であった。




