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第二八話:旅先の夜と禁断のスマホ

サービスエリアでの短い邂逅の後、バスは再び走り出し、修学旅行の目的地へと向かった。蓬田香織よもぎだ かおりは、手に握りしめた謎のキーホルダーのことが頭から離れなかった。小さなスマートフォンの形、そして四つの「i」。一体、何なのだろうか。


バスの中で、香織は八重やえにキーホルダーのことを見せようか迷った。しかし、八重に見せれば、きっと面白がって騒ぐだろうし、彼の真剣な表情の意味も、このキーホルダーに込められたメッセージも、理解してもらえない気がした。これは、自分と山本嘉位やまもと かいの間の、特別な何かに関わるものなのだろう。


目的地に到着し、バスを降りる。春の終わりの、少し湿った空気が肌を撫でる。海に近い場所なのか、潮の香りが微かに漂ってくる。生徒たちは、長いバス移動で疲れている様子だが、目的地の新しい景色に、再び高揚感が戻ってきたようだ。


ホテルにチェックインし、それぞれの部屋に案内される。香織たちの班は、四人部屋だった。部屋に入ると、まずは荷解きをする。


「あー、疲れたー!」八重がベッドにダイブする。

「でも、いよいよ修学旅行だね」香織は窓の外の景色を見た。見たことのない街並みが広がっている。


部屋でしばらく休憩した後、夕食の時間になった。ホテルの一室に集められ、夕食の説明と、修学旅行中の注意事項が改めて伝えられる。そこで、再びスマートフォンや電子機器の使用に関する厳しいルールが強調された。使用可能なのは、夜間の決められた一時間のみ。それ以外の時間は、電源を切って保管しておくように、と。


その説明を聞きながら、香織はポケットの中のキーホルダーを意識した。夜間の使用制限があるということは、もしこのキーホルダーが彼との連絡手段だとしても、すぐに使うことはできないということだ。


夕食は、ホテルの広い宴会場で、他のクラスの生徒たちも一緒に取ることになった。多くの生徒で賑わう会場の中、香織は「かい」の姿を探した。


彼を見つけた時、香織の心臓が再び跳ねた。彼は、彼の班のメンバーや、他のクラスの生徒たちと楽しそうに話している。その周りには、自然と人の輪ができている。彼の輝くような笑顔を見ていると、遠い存在だと感じてしまう。


夕食中、香織は「かい」と目が合うことはなかった。彼は、彼の世界で、楽しそうに過ごしている。一方、香織は、八重や班のメンバーと話しながらも、どこか上の空だった。手に握りしめたキーホルダーの謎が、香織の心を離れない。


夕食後、部屋に戻る。今日の疲れが出たのか、みんなすぐにリラックスムードになった。お風呂に入ったり、お菓子を食べたり、おしゃべりをしたり。しかし、香織は落ち着かなかった。早く、夜間の使用可能時間にならないか。


夜8時。待ちに待った、スマートフォン使用可能の時間になった。香織はすぐにスマートフォンを取り出し、電源を入れる。画面が立ち上がり、通知がいくつか表示される。その中に、「かい」からのメッセージはなかった。


(どうして…?)


少しだけ期待していただけに、香織はがっかりした。彼は、あのキーホルダーのことについて、何も言ってこないのだろうか。


香織は、意を決して「かい」にメッセージを送ってみることにした。


「あの…今日のキーホルダーのことなんですが…」


短いメッセージを送信し、香織はスマートフォンを握りしめて返信を待った。数分後、既読がついた。そして、すぐに返信が来た。


「あ、蓬田さん! 今、大丈夫?」


大丈夫。その言葉に、香織は少しだけ安堵した。彼は、自分のメッセージを無視したわけではなかった。


「はい、大丈夫です」


「かい」からの返信は早かった。


「あのね、今日のキーホルダーのことなんだけど、あれは…」


「かい」が何かを言いかけたその時、突然、部屋のドアがノックされた。


「かおりー! ちょっとお菓子食べに行こうぜー!」


八重の声だ。香織は慌ててスマートフォンを隠した。


「あ、ごめん、八重! 今、ちょっと手が離せないんだ!」


「えー、何してんのー?」八重がドア越しに尋ねる。


「…内緒…!」


八重はしばらく「えー!」と文句を言っていたが、やがて諦めたように立ち去っていった。香織は、ホッとしながら再びスマートフォンを見た。


「かい」からのメッセージが来ている。


「ごめん、邪魔しちゃったかな? また後で、改めて電話してもいい?」


電話。夜中に。香織は少し迷ったが、キーホルダーの謎を知りたい気持ちが勝った。


「…はい…」


香織は短い返信を送り、スマートフォンをベッドサイドに置いた。夜間の使用可能時間は、あとわずかだ。その短い時間の中で、彼と電話で話せるのだろうか。そして、あのキーホルダーの謎は解けるのだろうか。


香織の胸は、期待と不安でいっぱいになった。

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