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第二七話:サービスエリアでのすれ違いと問いかけ

バスに揺られること数時間。修学旅行のバスは、最初の休憩地点であるサービスエリアに到着した。運転手のアナウンスと共に、生徒たちは一斉にバスを降り、トイレや売店へと向かう。


蓬田香織よもぎだ かおりは、八重やえと一緒にバスを降りた。サービスエリアは多くの修学旅行生で賑わっており、活気に満ちている。香織は、トイレを済ませた後、売店でお土産を見ながら、再びあのキーホルダーのことを考えていた。


ポケットに入れたままの小さなキーホルダー。修学旅行中のスマートフォンの使用制限があるため、彼に連絡して聞くことができない。このモヤモヤとした気持ちを抱えたまま、あと三泊四日も過ごさなければならないのだろうか。


八重は、バスケ部の友達と楽しそうに話している。香織は、一人で売店の隅の方で、キーホルダーを手に取り、じっと見つめていた。小さなスマートフォンの形。そして、リングに刻まれた四つの「i」。一体、何なんだろう。


その時、香織の視界に、見慣れた後ろ姿が映った。山本嘉位やまもと かいだ。彼は、彼の班のメンバーと楽しそうに話をしながら、売店の方へ向かってきている。


(山本君…!)


香織の心臓がドクンと跳ねた。ここで彼に会えるなんて。今なら、直接キーホルダーのことを聞けるかもしれない。


彼は香織に気づくと、少しだけ驚いたような、それでいて嬉しそうな表情を浮かべた。そして、彼の班のメンバーに軽く断りを入れると、香織の方へ近づいてきた。


「蓬田さん! ここで会えるなんて!」

「あ、あの…山本君…」


周りの生徒たちの視線を感じながら、香織は緊張する。しかし、今がチャンスだ。キーホルダーのことを聞かなければ。


「ねぇ、あのさ…出発する前にくれた、これ…」


香織は、手に握りしめていたキーホルダーを「かい」に見せた。彼の顔が、一瞬だけ真剣な表情に変わる。


「ああ、あれね」


「かい」は、香織の手にあるキーホルダーをじっと見た。そして、香織の顔を見た。その瞳の奥に、何かを伝えたいような、それでいて言葉にするのをためらっているような光が宿っているように香織には見えた。


「これ…一体、何なの…?」香織は勇気を出して尋ねた。彼のあの真剣な表情、そして意味深な言葉。ただのキーホルダーだとは思えない。


「かい」は、香織の問いかけに、すぐに答えなかった。しばらくの沈黙の後、彼はフッと微笑んだ。それは、いつもの彼の笑顔とは少し違う、何かを含んだような笑顔だった。


「それはね…」


「かい」が何かを言いかけたその時、彼の班のメンバーが彼を呼びに来た。


「山本ー! もうバスに戻るぞー!」

「あ、ごめん! もう行かなきゃ」


「かい」はそう言うと、香織に何も答えずに、彼の班のメンバーの方へ向かって行った。香織は、彼の後ろ姿を呆然と見送るしかなかった。


「ちょっ、山本君! これは!?」香織は慌てて彼に呼びかけるが、彼はもう振り返らなかった。


去っていく彼の背中を見ながら、香織は手に残されたキーホルダーを強く握りしめた。結局、何も分からなかった。彼は、答えを教えてくれなかった。


(何なのよ…もう…!)


イライラする。彼の態度は、まるで香織をからかっているかのようだ。それとも、何か、自分に知られたくないことでもあるのだろうか。


サービスエリアの滞在時間は終わりを迎え、生徒たちはそれぞれのバスへと戻っていく。香織は、モヤモヤとした気持ちを抱えたまま、自分の班のバスに乗り込んだ。


バスの座席に座り、香織は改めてキーホルダーを見つめる。小さなスマートフォンの形。そして、四つの「i」。彼は、一体何を伝えようとしているのだろうか。


(これは…彼からのメッセージ…?)


何か、このキーホルダーに隠された意味があるはずだ。それは、彼からのメッセージなのか、それとも、彼が抱えている秘密に関係しているのか。


修学旅行は、まだ始まったばかりだ。この謎のキーホルダーが、これからどんな物語を紡ぎ出すのだろうか。香織は、不安と期待、そして彼に対する複雑な感情を胸に、バスに揺られて目的地へと向かった。



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