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第二六話:バスの中で、謎のキーホルダー

これなんだろう、見たことが無い


バスがゆっくりと校庭を出て、街中へと走り出した。修学旅行の始まりだ。バスの中では、生徒たちの楽しそうな話し声や、カラオケが始まっている賑やかな声が響き渡っている。しかし、蓬田香織よもぎだ かおりの耳には、それらの音はほとんど届いていなかった。彼女の心は、出発直前に山本嘉位やまもと かいから手渡された、小さなものに囚われていた。


手に隠し持ったそれを、そっとポケットの中で握りしめる。ひんやりとした感触が、香織の緊張をさらに高める。周りの八重やえや他の班のメンバーは楽しそうに話しているが、香織は上の空だ。


バスの窓の外を流れる景色を見ながら、香織は「かい」の顔を思い出す。出発直前の、あの真剣な表情。「これ、持ってて」という短い言葉。それは、一体何を意味していたのだろうか。


修学旅行中のスマートフォンや電子機器の使用は、夜間の決められた時間以外は禁止されている。だから、すぐに彼に連絡して、これについて尋ねることはできない。三泊四日、この謎を抱えたまま過ごさなければならないのだろうか。


(一体、何なんだろう…?)


ポケットの中で、香織は再びそれを握りしめる。硬い感触。少しだけ、形が歪んでいるような…。そして、何か小さな突起があるような気もする。


香織は、周りの目を気にしながら、こっそりとポケットからそれを取り出した。手のひらに収まるほどの小さなもの。見た目は、黒っぽい、何かをかたどったキーホルダーのようだ。


じっと見つめる。キーホルダー。それだけだろうか。彼が、ただのキーホルダーを、わざわざあんな真剣な顔をして自分に渡すだろうか。何か、意味があるはずだ。


キーホルダーの周りを見てみる。リングの部分に、何か小さな文字のようなものが刻まれている。目を凝らすと、それは「i」という文字が四つ、輪の周りに並んでいるように見えた。小さな「i」。四つ。それは、何を意味するのだろうか。


そして、キーホルダーの本体。それは、まるで小さなスマートフォンのような形をしていた。ミニチュアのスマートフォンのキーホルダー。


(小さなスマホ…? そして、4つの「i」…?)


香織の頭の中は、「?」マークでいっぱいになった。ただのキーホルダーにしては、あまりにも意味深だ。彼が、ただの飾りとして自分にこれを渡したとは思えない。


GPSだろうか。Bluetoothだろうか。あるいは、盗聴器…? 香織の思考は、斜め右下方向へ、どんどんあらぬ方向へと進んでいく。彼の、あのどこか影のある雰囲気、そして、彼の周りに漂う秘密めいた空気。そういったものが、香織の想像力をかき立てる。


(まさか…何か、危ないことに巻き込まれているとか…?)


香織は、彼の世界の複雑さや、彼の家族が持つ特別な背景を思い出す。彼が、何か隠していること。それは、危険なことに関係しているのではないか。そして、このキーホルダーは、その危険から自分を守るための、あるいは、彼からのSOSのサインなのではないか。


不安が香織の心を締め付ける。楽しいはずの修学旅行が、一気に不穏な空気に包まれたような気がした。手に握られた小さなキーホルダーが、ずっしりと重く感じられる。


バスの中の賑やかな雰囲気とは裏腹に、香織の心は、深い霧の中に迷い込んでしまったかのようだった。この小さなキーホルダーに隠された意味を、一日も早く知りたい。そして、彼の真意を確かめたい。しかし、それは、夜間の限られた時間になるまで叶わない願いだった。


修学旅行は始まったばかりだ。この謎のキーホルダーが、これからどんな展開を巻き起こすのだろうか。香織は、不安と期待が入り混じった複雑な感情を抱えながら、バスに揺られていた。

今は謎のキーホルダーであるが、何度も危機を救ってくれる貴重なキーホルダーであったと知るのは、ずっと先の事である。


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