第二五三話 考える、感じ取れる人に
榎本 幸恵「土曜が帝京、日曜が菅生」。強豪とのオープン戦に緊張する
そういう事か!そうだよね。
日々平日練習は続き、週末を迎えた。
朝6時にグラウンドに入り、整備を開始
マネージャーもベンチの掃除、アナウンス室の掃除を徹底していた。
程なくして、アップを始め、もう1度グラウンドを整備していると
八重、香織の案内を受けた、帝大が三塁側ベンチに姿を現していた。
お互いの監督同士が挨拶をし、グラウンドの見事な出来栄えを褒めたたえていた。
一方で帝大の選手達は、何故、Aチームの俺らが、無名校と試合をしなくてはならないのか、このグラウンドもったいないと思っていた。
そう、2試合の結果が出るまでは。
お互い整列をし、試合が始まる。
先行は和井田、後攻が帝大
球審
「良いグラウンドです。怪我の無いようにね、制限なしの9回まで行うからね、それでは、プレイ」
打席は、武田が1番に入り、初球をバント、三塁手が捕球し、送球するも、毎合わず、武田は余裕のセーフ。
武田のリードが大きく、牽制球が3回来るが、武田は余裕のセーフ
次のモーションに入ったとたんに、武田は走り出し、余裕のセーフ。捕手も投げるタイミングを失っていた。
続く花島も、奇麗な犠打を決め、1Out3塁。
3番伊達が、4球目大きなレフトにフライを打ちあげて、レフトが捕球、それを見届けながら、武田は余裕の生還
先取点を。先発は駿であり、144Kmのストレートと、縦のスライダー、横のスライダー、チェンジアップを投げ分け
無失点のまま進む、適宜バント構成で毎回得点を重ね、5回で駿から、守に変わり、守も143Kmを丁寧に投げ込み
打たせて取る、ピッチングを続け、終わってみれば
和井田 9 - 0 帝大 であった。
グラウンド整備をし、お昼を取ることにし、キッチンカーからマネージャーがお弁当を、ベンチに持ってくる。
八重
「はい、みんな、お疲れ様。無失点、流石だね、帝大相手に」
戸井田
「監督のサイン通りのスモールベースボール、この基本は大事ですからね」
食事済ませ、午後からもう1試合、先行が帝大 後攻が和井田でスタート
午後の試合は、こうせいが5回、148Km そして6回から連が投げ、155Kmと順調に。
午後も終わってみれば、帝大 0 - 13 和井田
無失点で試合が終わった。
帝大Aチーム選手達は、和井田高校投手陣、えげつない。球が速すぎるし、変化量も。
帝大の監督も、選手を責める事はなく、ただひたすら、駿、守、こうせい、連を褒めたたえていた。
帝大の無失点は、観戦に来ていた帝大の父兄のSNSから、広まっていった。
翌日、菅生との対戦である。
菅生の監督もグラウンドの素晴らしさを褒めたたえ、Aチームの選手もここ、凄い。
グラウンド整備を終えて、
嘉位の号令で集合した
嘉位
「昨日は、昨日、今日は、今日。そこでだ、監督と昨日話したのだがね」
「今日の菅生戦は、ノーサインで行く」
「ここからは、僕の話をよくかみ砕いて、聞いて欲しい。」
「けい、大丈夫か?こうせいも?」
けい
「かい、もちろん」
こうせい
「もちろんだよ、かい」
嘉位
「わかった。ゆっくり話すから、心に落とし込んで欲しい。」
「僕と由良がU-15日本代表、決勝戦ノーヒットノーランで初優勝をしたのは、知っているよね」
「あの時、ノーサインだった。僕がノーサインにすると決めた」
「井畑監督も、納得の上で」
「僕達は高校生。そして和井田の学生。和井田の知恵、知略は、学問と共にある」
「もう少し、わかりやすく、言い換えるね。何故、ノーサインで試合に臨むのかをね」
「いい、ゆっくり話すから、各自の胸に刻み込んで欲しい」
「野球は、サインで動くスポーツじゃない。信じて動くスポーツだ」
「監督の指示を待つだけじゃ、勝てない。仲間を信じて、自分を信じて」
「状況を把握し、このようにすれば、仲間はこのように動いてくれる等」
「もう1度ね」
嘉位は、声を大きくし
「自分を信じ、仲間を信じ、知恵、と、知略、走攻守を最大限に活かす」
「これが、和井田の野球である」
嘉位は、由良に目を配り
由良も声を大きくし
「結果は、必ずついてくる。キャプテンの言ったこと、忘れるな」
一同
「おーーー!!」
試合が始まり、各々が考え、状況を把握し、それぞれの役目を。
アナウンス室、来賓室で、和井田のマネージャー陣である
榎本 幸恵
「なんだか、みんな、楽しそうに野球をしている!!飯塚君かっこいい!笑顔だよ、ほら、にこやかに」
楓
「あら、あら、やっぱり飯塚君なのね、ゆきえちゃん」
榎本 幸恵
「え、だって、楓先輩、見てください、飯塚君、あんなに笑顔でプレイしているの、初めてみました。嬉しくて」
乙葉
「みてみて、かずきが、グラウンドに行っている」
小早川 日奈
「初めてじゃないかな、打席は4番けい君で、なんだろうね」
楓
「こっち、ひなちゃん、けい君しかみていないのね」
日奈
「え、先輩、違います。違いますって、たまたまです。伝令がかずき先輩が」
楓は、笑いながら
「はいはい」
そして次の瞬間であった
マネージャー、一斉に
「えええええ!!!!」
なんと、なんとである、あの、けいが、スクイズをしたのである。
八重
「うわ、けい君って、ホームラン以外打てるんだ、バントできるのね」
香織
「違う、違う、驚くところ、八重、それは、バント出来るでしょう。世田谷なのだから、そうではなく、このケースで、4番がスクイズ、それも、けい君が」
「凄い、みんな、自分の意思と、チームとして何をしなくては、ならないのかを、考えてプレイしている」
八重
「あ、そういう事ね、確かに。楽しそうに、そして、けい君セーフだ」
小早川 日奈
「セーフティースクイズが成功!すごい、けい君、かっこいい!」
楓
「ほら、やっぱり、けい君、けい君と」
桜井
「次、悟君だ。ああああーー!」
八重
「はいれーーーぇー」
桜井
「入ったーーー!!!ホームラン!悟君、ホームラン、ホームラン」
楓
「あれ、あれ、あれれ、シュンどうしちゃったの?それは、ホームランだけど、あれれ?」
桜井
「な、なんでも、ないです」
佐伯
「ナイス、バッティング!次は、光ね」
「打ったーーー!!光るも、レフト方向に」
楓
「入った!!」
八重
「連続ホームラン!」
香織
「今日の試合、嘉位が、ノーサインで、自由に、各々が考えてプレイさせると言ってんだよ」
八重
「うん、由良も言っていた。つまり、今のスクイズも、ホームランも、自ら考えて、行動して」
榎本
「凄い!凄い!強いよ、和井田!」
連は2試合目の最終回のみ登板し、3者三振 157Kmで投げ切った。
午前、午後、それぞれの試合は
和井田 16-0 菅生
菅生 0-18 和井田
和井田の圧勝であった。
この日以降、連は登板する事はなく、もちろん、嘉位、由良も出場はしていない。
これも、嘉位と由良、せんさん、かずき、連の講じた、作戦である。
一方で、帝大と菅生を失点0で下し、さらにグラウンドが素晴らしい事が広まり、超有名校の対戦の申込が後を絶たなかった。
5月は良く晴れ土日の試合が続き、6月は平日何日か雨があったが、土日は雨に降られることもなく、空梅雨であった。
その為、練習試合が次々と行われていった。
徳栄、常総、浦学、市船、横浜、日藤、相模、中央と週末強豪校との連戦が続く
結果全勝であり、しかも、失点0、エラー0で続いていった。
東東京大会も始まり、順当に勝ち上がり、初のベスト4まで昇り詰めるのであった。
そう、ベスト4までは。明中と神宮球場での対戦を迎えるまでは
嘉位のノーサインが再度登場するのは、そのころになる。
野球部の話はいったん、ここまでとし、学園生活の話は、6月半ばに戻って行く。




