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第二五話:出発の朝、手渡されたもの

どういう意味なの、わからないよ


修学旅行当日。朝早くから、和井田学園の校庭は一年生で賑わっていた。大きな旅行カバンを手に、生徒たちは楽しそうに友人とおしゃべりをしている。五月の爽やかな朝の空気と、旅行への期待感が入り混じった、独特の高揚感が漂っている。


蓬田香織よもぎだ かおりは、八重やえと一緒に自分たちのクラスの集合場所に向かう。周りの生徒たちの楽しそうな声を聞いていると、香織の心も少しだけ弾む。しかし、同時に、修学旅行の班が「かい」と別々になってしまったことへの寂しさも感じていた。


集合場所に到着し、クラスメイトたちと挨拶を交わす。引率の先生から、バスの座席や注意事項についての説明があった。バスは班ごとに分かれて乗車するようだ。


自分の班の列に並びながら、香織は周りを見回す。同じクラスの生徒たち、そして他のクラスの生徒たち。多くの顔の中に、「かい」の姿を探してしまう。


遠くの方に、彼の姿を見つけた。彼の周りには、やはり多くの生徒たちが集まっている。彼の班のメンバーだろうか。楽しそうに笑っている彼の横顔を見ていると、香織の心は少しだけ締め付けられる。


バスへの乗車が始まった。先生の指示に従い、生徒たちは順番にバスに乗り込んでいく。香織たちの班は、真ん中あたりのバスだった。


バスに乗る直前、香織が振り返ると、そこに「かい」が立っていた。彼は香織の班のバスの前まで来ていたのだ。周りの生徒たちも、二人の様子に気づき、視線を向けている。


「蓬田さん!」


「かい」は香織に近づくと、少しだけ真剣な表情になった。そして、手に持っていた小さな何かを、香織の手に握らせた。


「これ、持ってて」


それだけ言うと、「かい」は香織の返事を待たずに、自分の班のバスへと向かって行った。香織は、手に握らされたものを見つめる。それは、ひんやりとしていて、何か硬いものだった。周りの生徒たちの視線を感じながら、香織は動揺していた。彼が、今、このタイミングで、自分に何かを手渡した。それは、一体何の意味があるのだろうか。


香織は、彼が去っていく後ろ姿を呆然と見送るしかなかった。バスの乗車は続いており、先生から急かされる声が聞こえる。


(これ…何だろう…?)


手に握らされたものを、そっとポケットにしまう。周りの視線が気になって、すぐに確認することができない。彼の真剣な表情、そして「これ、持ってて」という言葉。それは、ただの偶然ではない気がした。


バスに乗り込み、指定された座席に座る。窓の外を見ると、他のクラスのバスが順番に出発していくのが見える。八重が隣に座り、「どうしたの? 顔赤いよ?」と香織に話しかけるが、香織は上の空だった。


手に握らされたものの正体が気になって仕方がない。それは一体何なのか。なぜ、このタイミングで彼が自分にそれを渡したのか。様々な疑問が、香織の頭の中を駆け巡る。


バスがゆっくりと動き出した。修学旅行が始まる。そして、この旅行が、山本嘉位と蓬田香織の関係に、新たな展開をもたらす予感を、香織は感じていた。手に隠し持った小さなものが、その予感をさらに強くしていた。



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