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第二一話:深夜の電話、そしてメイドの影

(おかしい、明らかに、誰か居る)


日曜日の深夜。蓬田香織よもぎだ かおりは、山本嘉位やまもと かいとの電話中に聞こえた微かな女性の声が気になって仕方なかった。「誰か、他にいますか?」という香織の問いに、「かい」は動揺した様子だった。その反応が、香織の心に疑念の影を落とす。


「本当に誰もいないよ。蓬田さん、どうしたの? 大丈夫?」と「かい」は心配そうに香織に問いかける。


香織は、彼に疑念を抱いていることを知られたくなかった。「あ、あの、気のせいかもしれません…」と曖昧に答えた。


しかし、彼の声の向こうから聞こえる、微かな物音や、女性の気配のようなものが、香織の耳には確かに聞こえているような気がした。それは、かすかな衣擦れの音だったり、息遣いのようなものだったりした。


(やっぱり…誰かいる…)


彼の態度は、まるで何かを隠しているかのようだ。デートの後、自分を避けるような態度を取っていたことと、今、電話の向こうに女性の気配がすること。それは、香織の中で一つの疑念へと繋がっていく。もしかして、彼は他の女の子と遊んでいたのだろうか。デートの後、すぐに他の女の子に乗り換えてしまったのだろうか。


香織の心は、不安と悲しみでいっぱいになった。せっかく、彼との距離が縮まったと思ったのに。せっかく、彼のことを好きになり始めたのに。


「…あの…そろそろ、寝ます…」香織は震える声で言った。これ以上、彼の声を聞いているのが辛かった。


「え? もう? まだ話したかったんだけど…」と「かい」は少し残念そうな声で言う。


その声を聞いて、香織の心はさらに乱れる。まだ話したい? だったら、なぜ他の女の子といるのだろうか。


「…ごめんなさい…明日も早いので…」


「そっか。わかった。無理して起こしちゃったかな。ごめんね。また明日、学校でね」


「…はい…おやすみなさい…」


通話が切れた後、香織はベッドの中で一人、涙を流した。彼の言葉、彼の態度、そして聞こえた微かな女性の声。すべてが、香織を苦しめる。


一方、「かい」は電話を切った後、ベッドサイドに立っているメイドの猿飛千佳さるとび ちかを見上げた。千佳は、香織からの電話で「かい」を起こすために部屋に入っていたのだ。


「…千佳さん。ごめん、起こしちゃって」

「いいえ、お坊ちゃま。大切な方からの電話でしたので」


千佳は、香織との電話での「かい」の様子を、静かに見守っていた。彼の声が弾んでいたこと、そして香織の声が少し沈んでいたこと。そして、香織が電話の向こうの女性の気配に気づいたことも。


「千佳さん…聞こえてた?」

「はい、微かに」


「かい」はため息をついた。香織は、電話の向こうに千佳がいたことに気づいたのだろう。そして、きっと、誤解してしまったのだろう。自分が他の女の子といると。


「どうしよう…蓬田さん、きっと誤解しちゃってる…」


「かい」は頭を抱えた。香織を傷つけるつもりは全くなかったのに、自分の不注意で、彼女を傷つけてしまった。


「お坊ちゃま。明日、きちんと説明なさればよろしいかと」千佳は静かに言った。

「うん…そうするよ…」


しかし、「かい」の心は晴れなかった。香織は、彼の説明を信じてくれるだろうか。一度抱いてしまった疑念は、簡単には消えない。


千佳は、「かい」の様子を見て、何も言わずに部屋を出ていった。静寂が戻った部屋で、「かい」は一人、香織のことを考えていた。彼女の悲しそうな声、震える声。自分のせいで、彼女を泣かせてしまったのかもしれない。


「蓬田さん…」


「かい」は、香織に謝りたい気持ちと、彼女の誤解を解きたい気持ちでいっぱいだった。そして、同時に、彼の世界に香織を引き込むことの難しさを痛感していた。彼を取り巻く環境、そして、楓の存在。それらが、二人の間に常に壁となって立ちはだかる。


しかし、香織への気持ちは、彼の中で日に日に大きくなっていた。彼女を失いたくない。どんな困難があっても、彼女と一緒にいたい。その思いだけが、「かい」の心を強く突き動かしていた。


(明日、ちゃんと話そう…)


「かい」は、明日の朝、香織に会って、すべてを話そうと決意した。彼女の誤解を解き、自分の本当の気持ちを伝えようと。但し、遺言は守らねば成らない。自分自身で伴侶を見つける。それは、嘉位が置かれている立場を隠す必要があった。すべてと言っても、このもどかしさ。

この「かい」の葛藤が、やがて世界を動かし、伝説を残す事の決意であるとは、誰も知りうることは出来ないのであった。そう、今は誰も



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