第十七話:変身した自分に驚くイベント
だれ?だれなの?え?わたしなの?
デパートの化粧品売り場で魔法をかけられた蓬田香織は、鏡に映る自分を見て、驚きを隠せずにいた。そこにいるのは、いつもの地味で内気な自分ではない。明るく華やかなメイクと、八重と山本嘉位に選んでもらった新しい服を身に纏った自分は、まるで別人のように見えた。
ビューティーアドバイザーの女性に丁寧にメイクの仕方を教えてもらいながら、香織は自分の顔が少しずつ変わっていくのを実感していた。肌のくすみがなくなり、目元が明るくなり、唇に自然な血色感が生まれる。普段の自分では絶対に選ばないような、淡いピンクのリップグロスを塗ってもらった時、香織は自分の唇がふっくらとして、女性らしい柔らかさを持ったことに気づいた。
メイクが完成し、再び鏡を見た時、香織は思わず息を呑んだ。自分の顔なのに、まるで初めて見る顔のようだった。自信なさげに揺れていた視線は、今はまっすぐ前を見つめているような気がした。
「わぁ…! すごい…!」
香織は感動して、声が出なかった。ビューティーアドバイザーの女性は、香織の反応を見て優しく微笑んだ。
「とっても可愛らしいわ。このメイク、きっと彼も喜んでくれるわよ」
「かい」も香織の変身ぶりに目を輝かせ、「すごい! 蓬田さん、本当に可愛い! 元々可愛いけど、今日のメイクと服、すごく似合ってる!」と興奮気味に香織を褒めてくれた。彼の心からの言葉が、香織の心を温かくする。
新しい自分になったような気がした香織は、少しだけ自信を持つことができた。今まで、自分の容姿に自信がなく、いつも俯きがちだった香織にとって、これは大きな変化だった。もしかしたら、自分も変われるのかもしれない。彼と一緒にいることで、新しい自分を発見できるのかもしれない。
デパートを出て、街を歩く。夜になり、街の明かりが一段と輝きを増している。香織は、新しい服とメイクで、まるで生まれ変わったような気持ちになっていた。「かい」の隣を歩きながら、すれ違う人々の視線を感じる。気のせいかもしれないが、いつもより多くの人が自分を見ているような気がした。そして、その視線が、以前のような好奇や侮蔑の眼差しではなく、賞賛や羨望のそれに変わったように感じられた。
香織は、横を歩く「かい」を見上げた。彼の横顔は相変わらず完璧で、まるで絵に描いたように美しい。そんな彼が、今、自分の隣を歩いてくれている。そして、自分を可愛いと褒めてくれた。
(夢みたい…)
現実のこととは思えなかった。数日前まで、自分はただの地味な高校生だった。それが今、学園一の有名人である山本嘉位とデートをしている。そして、八重と「かい」のおかげで、自分自身も少しだけ変わることができた。
「ねぇ、蓬田さん、何か食べたいものある? それとも、どこか行きたい場所とか?」と「かい」が香織に尋ねる。
香織は、彼との時間をもう少しだけ長く続けたいと思った。
「えっと…特にないんですけど…山本君と、もう少し一緒にいたいです…」
精一杯の勇気を出して、香織はそう言った。「かい」は香織の言葉を聞いて、少し驚いたような顔をしたが、すぐに優しい笑顔になった。
「ありがとう。僕も、蓬田さんと一緒にいたいよ」
二人は、他愛のない話をしながら、夜の街を歩いた。カフェに入ってお茶をしたり、公園のベンチに座って話をしたり。時間はあっという間に過ぎていく。彼と一緒にいる時間は、香織にとって、何よりも大切で、かけがえのない時間だった。
デートの終わりに、「かい」は香織を家の近くまで送ってくれた。別れるのが名残惜しくて、香織は立ち止まってしまう。
「今日は、本当にありがとう…」香織は顔を赤らめながら言った。「ラーメン、こぼしちゃったのに…」
「いいんだよ。楽しかったし、蓬田さんの新しい一面も見れたし。それに、新しい服もすごく似合ってたよ」
「ありがとう…」
「かい」は香織の頭を優しく撫でた。その指先が、香織の髪をそっと梳く。香織は、彼の温かい手に、ドキドキしながらも心地よさを感じていた。
「また、すぐに会いたいな。明日、学校で話そうね」
「…はい」
「かい」が香織の家から離れていくのを見送った後、香織は一人、夜道を歩いた。手に持った紙袋、そして心の中に残る彼の言葉と温かい手の感触。今日のデートは、香織にとって、忘れられない一日となった。そして、この日を境に、香織の心の中で、「かい」の存在は、単なる学園の有名人から、かけがえのない特別な人へと変わり始めたのだった。そう、特別な人へと