第一三五話 連、受験当日
楓が血相を変えて、走ってきた、ものすごく焦っている様子は、香織の目にもあきらかであった。
「お兄様、連!連が、居ないのです」
「昨夜お弁当の事を忘れていて、お願いに上がったのですが」
「その後部屋に戻って、一緒に寝ました。アラームは4時にセットしてあったのですが」
「わたくし、起きる事が出来ず・・・」
「今、起き上がったのですが、どこにも、」
「とこにも、連の姿が無いのです」
「まだ外は暗いですし、色々お屋敷を回ったのですが、居ません」
「スマートフォンは、部屋に置いてありますし、その他の物も部屋に」
「連、連は、どこへ、私のミスです。お兄様・・・」
「お兄様・・・」
楓は涙ぐみながら、取り乱していた。嘉位は連がどこにいたのか、先ほど確認していたこともあり、冷静であった。
嘉位
「楓、連君は大丈夫、心配しないで」
楓は意味がわからずに、連が居ないのですよ、今日和井田へ試験なのですよ、お兄様わかっていらっしゃるのか
それも東京には土地勘が無い、たぶん、無いと思います。その連が居ないのですよ、何故にお兄様は冷静なの
楓は、お兄様・・・。なんで、どうして?と、不安が頭に過っていた。
また、わたしが、ミスを犯したのだ。何か準備不足であったのか、
いったい、何を
今日の準備は確認したはず、それなのに、連は居ない。思い当たる事は何もない、どうして?・・・。
楓は頭の整理がついていなかった。
嘉位は楓を見て、いままでの僕の行動を振り返れば、わかるものの
これだけ取り乱す、楓
楓は連君への想いは、そうとうな物だ。そう、それは僕が香織を想う程に。
楓も連君についてだけだな、取り乱すというのか、冷静さを失うのは
連君、素晴らしい男性であることは、あの目をみれば良くわかる。
嘉位
「楓、落ち着いて」
楓・・・お兄様、落ち着いていられますか、連、連が居ないのですよ!それもこの真っ暗の中で
受験が怖くなったのでしょうか、いやそんなはずはない、連に限って
楓の不安は態度に出ていた。自分の肩を両腕で出来抱え、わずかに震えている様子が、わかる。
嘉位
「楓、問題ない。」
楓は、お兄様の言っている事の意味が、さっぱりわからず、なんで、あんなに冷静なの
連が居ないのですよ。どうして、そんなに、もう、いい!自分で探す!
楓はその場を立ち去ろうとしていた!振り向いて、・・・。
嘉位・・・。取り乱しているな、安心させてあげないとな。香織の方に目をやり、香織も頷いた。
「楓」
「楓」
「楓!!!!」
すこし声を大きくし、楓の行動を引き留めた
嘉位
「楓、僕がいままで、朝部屋に居なかったとき、どうしていた?」
「楓はわかるはずだよ?」
楓は、は!と思い出し、もしかして・・・とお兄様の顔を見た
嘉位は、そうだと、頷いた。
楓は、外を見てみると、そこに、連は暗闇の中、走っていた。
楓は、安堵したかのように、その場に座り込んだ。
香織は楓の傍により、連君の事が楓ちゃんの頭から体全体を、そうだ私もそうだった、以前は嘉位のことになると頭がいっぱいで、期待もしながら、不安もあり、その葛藤が
嘉位
「ほら、僕も何か大きな事をする前は、気持ちを落ち着かせるために、軽く汗を流していたでしょ?」
楓は、は!そうだ、そうでした
「あ!お兄様、全国大会へ遠征に行かれる当日とか!」
嘉位
「そう、僕だけではないよ、由良だって、そう。なんというか嬉しいような、期待感があって目が覚めると、軽く流してくるのだよ」
「おそらく、これは野球に限ったことではなく、アスリートの皆、そうではないのかな?」
楓は、安心して!でも、それなら、そうと、連も私に声をかけてくれれば、私だって一緒に走ったのに
あ!完全に寝ていた。アラームも連が止めてくれていた・・・。
嘉位
「先ほど社長、いや母さんから連絡あり、香織とセンターに居たのだが」
「そこに向かう際に、そとで走っている連君を見かけていたのだよ」
「おそらく、そろそろもどってくるはず。楓は、タオル等を連君に渡してあげてください」
楓は、お兄様の暖かさを改めて痛感した。
香織も楓ちゃんの背中をさすりながら、
「大丈夫ですよ、楓ちゃん」
と言葉を添えた。
少しすると、連が帰ってきた。
そーと、扉をあけて、物静かに入るが、そこには楓が立っていた
連
「あ、楓おはよう!」
楓は、すこし威圧した声で!
「おはよう!じゃないでしょう、何処に行っていたの?!」
連
「あ、ごめん、なぜか目が覚めてしまい、トイレにいこうと部屋を出たら」
「袋があって、その中に・・・!」
楓は、連をあらためてみると、和井田のジャージを着ていた。
連
「これを見たら、着たくなってしまい、楓に声をかけたけど、深く寝息が・・・」
「僕の為に昨夜いろいろ準備してくれたから」
「起こしたら、悪いな、と思って」
「外に軽く、走ってきた。真っ暗でも、何か所も街灯があって、ぐるっと、何週かしてきた」
楓!
「もう!起こして一緒に走るのだから、本当に、本当に、心配したのだからね」
連
「あ!ごめん」
今丁度朝の5時になるころであった。まだ外は暗い。1月ではあるが今日は比較的気温が高かった。
楓はタオルを差し出して、
「お風呂入る?シャワーでも良いけど?」
連
「いや、大丈夫汗をかくほどは、走りこんでいないから、なんというのかな?体を動かしたい的に、!」
「楓、見て!ほら、この和井田のジャージ!」
楓は、クスっと笑いながら
「うん、似合っているよ、和井田」
連は嬉しくなり!よーし、今日試験見事に突破する!そう、思っていた
二人は、広前にいくと、そこには嘉位と、香織が居た。
連
「おはようございます、かいさん、かおりさん」
香織
「おはよう、連君」
嘉位
「おはよう!気持ちはすっきりしたいかい?連?」
連
「はい!」
香織、走ってきて、気持ちがすっきりとか、そういうのは、この世界の人たちでないとわからないな。
嘉位は何も心配していない事は、スポーツ選手は皆、そういうものなのだろうなと、思っていた。
すると、八重と由良も広間にやってきて
由良は嘉位に、目でやったぜ!と合図をおくり
由良は皆が揃っている事を、見渡して
「はやいね、おはよう!いやー、新しい朝というのかな、素晴らしい朝!遠征の朝みたいな感じだよ!この気持ちの高ぶり!」
八重は顔が真っ赤になり
「お、おはよう」
香織は八重の顔色を見て、あ!八重も大人に!・・・と察した。
嘉位は、少し時間が早いが皆が起きてきたこともあり
「今日は、連君の和井田の受験、楓が一緒に和井田へ」
「おそらく14時前には終わって、遅くとも15時にはかえって来られるでしょう」
「部屋の前にあった、和井田のジャージ、インナー、防寒具をつけ」
「16時から外で、焼肉でお祝いをしよう!」
「朝食を取ってから、楓、連君は和井田へ」
「由良と僕は、かるく練習場にいく、香織も、八重さんも来る?」
香織
「もちろんです」
嘉位
「少し、早いから、いったん部屋にもどって、6時30分頃にまた、ここで朝食にしよう
一同!了解!!
皆朝食を取り、連の準備もおわり、
千佳が、楓にお弁当を手渡し
千佳
「いってらっしゃいませ」
と深く頭をさげて、連と楓を見送った。
香織は、一回部屋に戻って、お着替えをしてから、練習場に・・・。
「では、私たちも着替えてから、練習場にいきましょう!」
香織は!は!と思い、どうして、わたしが仕切っているのだろうと、・・・。
嘉位は、気にせず
「そうしようね」
皆が着替えをすませ、和井田のジャージ姿になり、練習場に入っていた。
由良
「そろそろ、試験開始かな?」
八重
「うん、そんな時間だよね」
嘉位
「なにも問題ないよ、それより由良」
「今日は連の球みられないけど、明日は、連、見てみたよね?」
由良
「あ!もちろん、思うところがあるのだよね」
「世田谷は、良いとして、普通中学3年夏が終わると、受験があるから」
「夏から冬に向けて、ブランクになる」
「世田谷はたまに顔を出せば、体は動かせるのだけれども、試合形式とかないから」
「この期間、もったいないと思うのだよね。」
嘉位
「わかる、わかる、最近はそれを気にしているところもあって、社会人野球がコーチングしているところもあるみたいだね」
「ただ全国くまなくというわけには、いかないから」
「由良が言う通り、全体的な感覚が、損なわれてしまうよね」
「少し、考えておくね」
八重?!・・・考えて、どうにかなるものなのか?・・・。香織の旦那?
八重は香織に視線を向けて
香織は、うん、わかる、わかる、八重の気持ち
「おそらく、何か、その期間の講義というか、トレーニング的なものを作るって事じゃないかな?」
嘉位
「まさに、それ!それだよ、香織、今すぐにとはいかないけど、計画してみる」
由良
「そりゃー良い事だよ、流石だな、嘉位」
「じゃー、まずはストレッチを軽く2時間かな?」
八重?!2時間、2時間も柔軟するの?・・・バカなの?2時間だよ、2時間、120分!!!
嘉位
「うん、最低2時間はやらないとね」
八重・・・は?!2時間が最低?・・・。女バスでも、30分やれば長いほうなのに
香織は、ストップウォッチを取り出して
「では、いまから2時間、がんばってね!スタート!」
嘉位と由良はストレッチを始めていた。
ネットの裏側で、
香織と八重は、二人のストレッチを見ながら、
話始めていた
八重は、いわなくてはと、顔を赤くしながら
「あのね、香織、香織の旦那の家で、ごめん」
「でも、我慢が出来なくて、由良を受けれいれて、・・・」
香織!も赤くなり
「八重!おめでとう!」
「どうだった?」
八重!はさらに、赤くなり
「す、すごかった!」
香織!?
「でしょ、でしょ、言い表せないよね、凄いと、それ以上うまく、言い表せないよね!」
八重、・・・赤くなりながら
「うん、この間、香織が言っていたことが、良く分かったよ」
「一人でするのと、全然違う!もう、なんと言っていいのか」
香織はすこし、びっくりして
「ひとりで?・・・」
八重
「またまた、お嬢様、ひとりで、エッチすることだってあるでしょう?」
「え?無いの?いままで?」
香織・・・。うーーーーん、と考えてしまい
「な、ないかな?」
八重
「え!、まじで?!そうか、それだと比較が難しいけど、でも、すごいよね、幸せを体中駆け巡るというのか」
香織
「うん!わかる!」
香織はふと、気になっていたことを思い出していた
「そう、前から八重は、山本嘉位とフルネームで呼んでいたよね?どこかで、あったことがあるのかと、ずっと疑問だったの?」
八重
「あ!そうか、それ言ってなかったよね」
「そうね、中学三年の冬、12月の頭くらいだったかな?」
「社交界に呼ばれてね、そのとき、由良もいたのだけど」
「あの時の山本のお母さんの毅然としたお話と」
「そして、香織の旦那の談話は」
「そこに居る、偉い方々を魅了するような、それは特に、凄かったな」
「同じ中学生とは思えない、もう立派な大人のふるまい、言葉遣い、話が伝わりやすくて」
「びっくりしたのも覚えているよ」
香織、あ!それで、なのか、あの千佳さんたちが・・・あの話なのだ、おそらく嘉位は御曹司の顔つきだったのだろうな?
「あ!納得いった。」
八重
「由良も、香織の旦那も学校生活では、子供みたいに、はしゃいでいるのだけどね」
香織
「うん!うん!わかる、それがなんというか可愛いく、みえてしまうのよね」
八重
「そうだよね!そう、香織もそう思っていたのだね」
香織
「うん!あのギャップが、また、キュンとくるというのか、なんていえばいいのかな?」
八重
「わかるなーー!言葉では説明できないような、でも、ぐいぐい引き込まれるような」
香織
「そうそう!本当に、そう!」
そんなことを、話し合っているうちに、ストップウォッチは2時間を経過し、アラームがなった
八重!は、大きな声で聞こえるように
「由良、2時間たったよーーーーー!」
由良ふぅーーー、きついなー
「では、すこしランするか?」
嘉位、まだ、まだ、硬い、体・・・・
「了解」
二人はゆっくりと、体を温めるかのように、走り始めた。
香織は八重に話しかけ
「女バスもあんな、感じのペースで、ボールとかは触らないの?」
八重は、少し考え込んで
「うーん、あんなにはやらないかな、ちょっと異常だよね?(笑)」
嘉位と由良は、軽いジョギングを終えて、一度、休憩した。
香織が、タオルとスポーツドリンクを差し出す
嘉位
「!サンキュー!」
「もう、こんな時間なのか、一回汗を流してから、お昼にしようか?」
八重と香織は、お互いの目を合わせて
「?!何も野球の練習していないじゃない????」
由良は笑いながら
「どの球技もそうだけど、1試合長いでしょう、野球なら2時間から3時間。その間集中」
「ストレッチで柔らかく、アップも含めて行わないと、いつなんどき怪我するかわからないからね」
八重、凄いな、女バスでもそこまで、・・・
「一日中ストレッチの日とか、走り込みの日はあったけど、ボール使う前に、数時間のアップは、なかったなー?」
香織
「では、とりあえず、シャワー?お風呂ですか?それからお昼にしましょう」
「丁度、連君も筆記試験は終わったころでしょうね」
八重!うん、そうだ、そのころだ
「そうだね、連君ちゃんと、試験できたかな?」
由良
「そりゃー問題ないよ、俺と嘉位が教えたのだから」
香織、そうですよね、学園1,2がみっちり仕上げたのだし
由良と嘉位は、露天風呂に入り、一息ついた
由良
「飯食ったら、午後は投げるのか?それとも、打つか?マシーンで」
嘉位
「両方かな、まず、マシーン使って、最後に20位?投げるかんじで」
由良!
「了解、了解!」
「そのころには、連君もかえってくるし、夜焼肉って言っていたよね?」
嘉位
「もちろん、連君のお疲れ様でした会的にね」
二人は笑いながら、風呂を出て、食事へと向かった。
お昼も豪華であった。
食べ終わると、再び、練習場に足を運び、
ネットを、動かして、お互いボールがぶつからないように、ガードをし、
位置を確認しながら、マシーンのスイッチを2台いれた。
由良、いくつに設定したのだろう?
嘉位は、由良の疑問を察知して
「球種ランダムで、直150で」
由良、了解!
二人は、嘉位の道具置き場から、あらためてバットを取り出し
その間にも、マシーンからはボールが、届いていた。
由良、木製使ってみるかな?
「嘉位、これ木製使っていい?これくらいじゃないと」
嘉位、あ、そうか、僕も木製にしよう
「うん、木製で、いきなり金属だと飛びすぎちゃうから、木製でやろう、金属も新しい基準のやつだよ、でもやはり木だよね」
由良、うし!
由良も嘉位もかるがると、ボールを、バットの芯 で、見事に捉えていた
香織と八重は、あっとうされた!すごい、あんな勢いで飛んでいくのだ
ひたすら打ち続け、かごはお互い5つ。打ち終えた。
由良、なかなか良いな。俺も嘉位も、まー、マシーンだし、当たり前か
「では、次は投げますかね、そろそろ15時になるし、20で終わりにしようか?」
嘉位、時計をみて、連、面接もとっくに終わって、こちらに向かっている感じだな
「由良、了解じゃー、どうする?20で」
由良、少し考えて
「直4、チェンジ2、カーブ2、縦スラ4、横スラ2、カット2、スプリット2、MAX2で20どう?」
「変化はサインだすから、ゆっくりで」
嘉位
「OK!」
練習場に音が、響く!
ばーーーーーーーーーーーーん
落ちるボールも、ものすごい落差で、落ちる!
由良
「ナイスボール、では最後はMAXフォーシーム2で」
香織も八重も食い入るように二人をみつめていた。これが世界一なのである。
しゅるるるうーーーーぅうーーーーーばーーーーん
物凄い空気を切り裂くような音を立てて、由良の構えている真正面にボールは突き刺さった、
八重と香織は、唖然とし!すごいという言葉以外でてこなかった。
最後の球を投げ終えて、よし、今日はここまでという感じで
嘉位、由良は後片付けを始めた。15時を少しすぎたあたりであった。
四人は、広前へ移動しながら、嘉位と由良は、なにかポイント的なところを確かめあって、話をしていた。
八重は、これは惚れちゃうなー、と香織をみて、香織も、そーだよね、かっこいいよねと目で合図をしていた
広間につくころに
「ただいまー、帰りました」
連と楓が帰ってきた
八重が、
「連君どうだった?試験?試験?」
と食いついていった
連君
「完璧です!ありがとうございます」
楓・・・。面接で放った言葉を聞かされており、再度頭を過った。
楓
「面接、お兄様と同じ、そのまま、面接をしたそうです。」
由良、お!宣言してきたのか!
連
「はい、面接は10秒くらいです。和井田学園、初の甲子園に行きます! それだけです」
由良は良くいった!と納得した。
嘉位
「よーし、では!これから、暖かく、そうだね和井田の野球部の防寒着に着替えて、焼肉にしよう!」
一同、おーーーー!!
外には沢山の赤外線コンロが、設置されており、シェフが多数お肉を焼いてくれていた。
香織!これは、美味しい!
料理長
「はい、松坂牛をはじめとする、丹波牛、常陸牛、仙台牛、そして、仙台の牛タン等、また、牛肉以外に、鹿児島さんの黒豚も用意してあります、こちらは少しお時間がかかります、ご堪能ください」
連
「凄い!凄い!ーーーー!うまい!うまい!どんどん入る!」
「皆さん、本当にありがとうございます!」
香織、これは、とてもおいしい!
ごはんが沢山、すすんじゃう!
八重も、由良とひたすら、箸が進んだ。
楓も連に沢山、お肉を取ってあげていた。
ふーーー!、もう、入らない。凄い、凄い
嘉位
「では、おなかも満たされたこともあり、今日は、男性陣が露天風呂で、女性陣は浴場へと」
「それぞれ、お風呂に入ってから、広間でデザートにしよう!」
それぞれ、大満足で、食事を終えたのであった。
連
「露天風呂!楽しみだ、そして明日は、僕の球を、御手洗さんに受けてもらうんだ!、そっちのほうが楽しみであった」
< つづく >