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第一二話:4日目 SNS通話チャットにて、 明日 かいからデートに誘う

(え?デート、デートって何?え?デート、ええええ!)


山本嘉位やまもと かいと一緒に帰宅した日の夜。蓬田香織よもぎだ かおりは、夕食を済ませ、自分の部屋に戻っても落ち着かなかった。いつ、「かい」から連絡が来るのだろうか。スマートフォンを片時も離さず、そわそわしていた。


午後8時を過ぎた頃、香織のスマートフォンが鳴った。差出人は「山本嘉位」。「今、大丈夫かな? 少しだけ話せる?」という短いメッセージだった。


「大丈夫です」と返信すると、すぐに「かい」からSNSの通話がかかってきた。香織は深呼吸をして、通話に応答する。


「もしもし?」香織は緊張しながら声を出す。

「あ、蓬田さん? 聞こえる?」

「は、はい、聞こえます…」


「かい」の声は、電話越しでも優しく、そして少しだけ楽しそうな響きがあった。


「夜遅くに、ごめんね。あのさ、今日の昼間に話してたことの続きなんだけど…」


「かい」は、昼間の食堂での会話の続きを話し始めた。入学式で香織に会ってからの彼の心境、そして香織のどこに惹かれたのかを、率直に語った。彼の言葉は飾り気がなく、真摯だった。香織は、彼の言葉を聞いているうちに、胸の奥が温かくなっていくのを感じた。


「蓬田さんと話してると、なんだかすごく安心するんだ。それに、君の知らない一面をもっと知りたいって思うんだ。だから…」


「かい」は、少し間を置いてから言った。


「明日、もしよかったら、二人でどこか行かないかな? いわゆる、デート…なんだけど」


デート。その言葉を聞いて、香織の心臓は大きく跳ね上がった。まさか、こんなに早く彼からデートに誘われるなんて、想像もしていなかった。嬉しさ、戸惑い、そして少しの恐怖がないまぜになった感情が、香織の心を駆け巡る。


「…えっと…」香織は言葉に詰まる。


「もちろん、嫌だったら断ってくれて構わないんだよ。急にこんなこと言って、ごめん」と「かい」はすぐに付け加えた。


彼の優しさが、かえって香織の心を締め付ける。断るなんて、できない。彼の真剣な気持ちに応えたい。でも、本当に私でいいのだろうか。彼の妹である楓の顔が、香織の脳裏をよぎる。


「あの…考えても、いいですか…?」香織はそう言うのが精一杯だった。


「うん、もちろんだよ。急かしてごめんね。ゆっくり考えて、明日学校で返事を聞かせてくれると嬉しいな」


「…はい…」


その後も、「かい」は他愛のない話を続けた。今日の授業のこと、趣味のこと、家族のこと。彼の話を聞いているうちに、香織は少しずつ緊張がほぐれていった。彼の声は優しく、聞いているだけで心地よかった。


気づけば、一時間以上も電話で話していた。そろそろ寝なければ、と思った香織は、「あの、そろそろ寝ないと…」と「かい」に伝えた。


「あ、ほんとだ! ごめん、話しすぎちゃったね。付き合ってくれてありがとう」

「い、いえ…楽しかったです…」香織は正直な気持ちを伝えた。

「そっか、よかった。僕も、蓬田さんと話せてすごく楽しかったよ。明日、学校でね」

「はい…おやすみなさい」

「おやすみ、蓬田さん」


通話が切れた後も、香織の胸のドキドキは止まらなかった。楽しかった。彼と話すのは、想像していたよりもずっと楽しかった。そして、明日、彼に返事をしなければならない。デートの誘いを受けるのか、断るのか。


ベッドに横になりながら、香織は考えた。彼とのデート。それは、香織の平凡な日常を大きく変えることになるだろう。彼の輝かしい世界に、自分が踏み込んでいって大丈夫なのだろうか。そして、楓の存在。彼女は、きっと二人の関係を邪魔しようとするだろう。


不安は尽きない。でも、それ以上に、「かい」のことをもっと知りたいという気持ちが、香織の心の中で大きくなっていた。


(明日、どうしよう…)


香織は、答えが出ないまま、目を閉じた。明日の朝、昇降口で彼に会った時、自分はどんな顔をして、何を言うのだろうか。突然のデートという強いワードに、困惑しながら、乱された心を、時間をかけて落ち着かせ、春の夜は静かに更けていった。


(つづく)

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この話好きですね! 登場人物の繊細な描写が、容易く心理を思い起こさせます。
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