第一〇五話:初詣の誓いと、新たな誓い
第2部:広がりの章 〜学園と未来〜
結ばれた 嘉位 と 香織 物語は学園全体へと広がる。
経営者の視点を持つ嘉位が、学園の課題に挑み、男の子、女の子の恋心、トラブル、問題、そして、涙、友情、恋愛、そして夢が交錯する。
野球部の再建、経営改善、、多角的なベクトルで展開される青春群像劇。
ラブコメの軽快さと、社会的テーマの深さが融合した第2章。
【初詣の朝】
晴天に包まれた新年の朝。初詣は事前に明治神宮に行くとお互いで決めていた。香織は着物を纏い、白い帯を整えながら、朝日に向かて手を合わせて祈りを捧げた。薄紅の羽織を纏った彼女は、まるで絵本から飛び出しそうな美しさ。一方、嘉位は袴に着飾り、腰を正して歩く姿は、貴族の風格を放っていた。
「香織、奇麗だ」
恥ずかしそうに、俯きながら自然と目を反らすが、頬は赤く染まっている
「あ、ありがとう、嘉位も凛々しいです」
山本家の送迎者が丁寧に声をかけ、香織は少し恥ずかしそうに頷く。嘉位も彼女の手を取ると、すぐに明治神宮についていた。嘉位のエスコートにより、二人は神社の参道を歩く。その足
音は、まるで神の祝福を受けているかのように静かだった。
あまりの人の多さに、境内につくまでに一時間以上かかったが、二人は苦ではなかった。
明日や明後日の予定をお互いに聞きあって、二人とも新学期が始まるまではフリーということ。
それは二人でいる時間が十分にあることを意味する。
嘉位は言った
「やはり冬だね、例年より暖かいと言っていたけど、香織は寒くない」
「大丈夫」
嘉位は強く、香織の手を握り、時折と手に息を吹きかけてくれた
香織はそれが、あまりにも子供っぽいことをする嘉位の予想外の行動にくすっと笑ってしまった。
「え?なんかおかしいかな?」
「いえ、ありがとう」
初詣を終え、二人は境内の池畔で静かな時間を過ごした。嘉位が香織の手のひらをそっと握ると、彼女は目をそらしてしまっ
た。その瞬間、彼の胸に新たな誓いが芽生えた。
「香織、この先も、あなたの隣にいさせてください。」
彼の声は、神社の鐘の音に混ざり、空に響いた。香織は涙ぐんでうなずいた。
何か食べて行きたいところだが、家で両家が待っていることを考えると、足早に戻るしかなさそうだ
神社を後にし、車を呼び出し山本家に戻ると、家族たちはすでに待っていた。料理の香りが漂う部屋で、両家が顔を合わせる。
楓もいる、父、母ももちろん、奥にはメイドたちが控えている。
ただいま戻りました。
あったかい。思わず口に出てしまった。
千佳さん、ある程度したら二人とも着替えて良いかな?
「かしこまりました」
おおー来たか、来たか、まっておったよ
父は既に酔っぱらっているようだ。母が目配りをして
嘉位が仕切りなおす。
「あけましておめでとうございます。この度は当家にご足労頂き痛み入ります」
蓬田の父
「いや、いや、固いことは良いから、飲みましょう!ぱーっとぱーーっと!」
蓬田の父も既によっているようだ。
蓬田の父、母の隣に一人男の子がいた。
嘉位は、あたりを見回した。うん、全員いる。香織の手を取って
「山本家より、蓬田香織 お嬢様と結婚させていただきます。」
嘉位が一歩前へ出ると、父は満面の笑みで頷いた。母も安堵したように回りを見渡した。
それものはず、両方の父は既に酔いすぎている形だ。
楓は、少し遠慮していたが、
香織に対して、
「あらためて、香織お姉さま、よろしくお願い致します」
香織は、少し涙ぐんだ、正直楓から拒否されると思っていたからだ。皆さん受け入れてくれたんだ。ホットした瞬間、大粒の涙に代わっていた。
香織は声に、ならない声で
「膝を折り、手をついて 山本の父と母に、不束者ですが何卒よろしく願い致します」
と深々と頭を下げ、重ねて
「嘉位、ずっと一緒だよ。もう、どこにも行かないでくださいね」
嘉位はちょっと顔がひきつったように、思えたが
「もちろん、一緒だよ」
なぜなら、これから野球を再開することをまだ伝えきれていなかったからである。
ふっと気が付くと、何か言わなくていけないような
素振りで、注目させるべく、
「えーー、であり、」
「えーーそれでですな」
と訳わからんことを、濁音的な感覚でいいはじめたのは、蓬田の父だった
「我々も、新たな絆で、この世を歩んでいきましょう。」
やはり意味不明であったが、そこは蓬田の母が繕いなおし
「両家つつがなく、縁結ばれたことです。しかしながら、山本様ひとつだけご提案がございます」
山本の母
「はい、承ります」
蓬田の母
「先祖代々、蔵を守り今日にいたっております。形式的ではございますが、結納の儀をと」
山本の母
「それもそうですわね。このように両家合意の婚姻が認められることも大事ではありますが、由緒正しく結納の儀を行いましょう」
楓が言う
「結婚は一八歳からなんですわよ、結納の儀は11月位がいかがかと」
嘉位が言う
「あ、いや、11月は」
楓
「お兄様、結納する意味をわかっていらっしゃいますよね」
嘉位
「いや、楓違うんだ、11月は秋季関東大会があって」
香織
「え!」
嘉位
「香織に納得してもらってから、伝えようと思っていたのですが」
「わたくし、微力ながら野球に復帰致します」
「ごめん、香織、勝手に決めてしまって」
香織
「いえ、私からも野球をやってほしい思いがあったの」
嘉位
「ん?どういうこと」
「おにいちゃん!おにいちゃん!嘉位にーちゃん」
それは、蓬田の席でがつがつと料理を頬張っている男の子が手をあげていた
香織
「実は、先日家に来た時に、あ、紹介していませんでした、弟の球道です」
「その球道が、嘉位を観たときにU15の山本さんだ」
球道
「そうだよ、せっかく日本一が来てくれたのに、教えてくれなくて、僕も野球やっているから野球の事とか代表の事とか、教わりたかったのに」
嘉位
「あーそういうことがあったのですね、よし、球道君、ちょっとやってみるか」
球道
「え?いいの?でも、僕何も持ってきてないよ」
嘉位
「大丈夫全てあるから」
両家の父はまだ飲み足りないみたいで、いや今から本格的に飲むぞ
という感じだったので
「かあさん、一回退席していいかな?」
「球道君、ちょっとまっててね、着替えてくるからね」
香織
「あの、わたしも着替えてよろしければ」
楓
「それもそうですわよね、酔っ払いに絡まれる前に」
「千佳さん、着替えに案内してもらえるかな?香織を」
かしこまりました
広い廊下を歩き、各々着替えを済ませ、球道君の元に戻ってきた。
香織
「あら、球道も着替えたの?」
球道は、照れながら、ちょっと恥ずかしい感じがしていた
千佳
「香織様、これは嘉位様があちらで使っていた小学校の時の練習着です」
球道
「これぜんぶ、アーマーなんだよ、すごいよ、名前入りで」
香織にはよくわからなかったが、嘉位の小さい時の服が見れてうれしかった。
少し外をあるくと、大きな部屋というより体育館とでもいうような建物の前に来た
中をあけると
球道
「すげーーーーーぇ バッティングマシーンもあるし、マウンドもある それも2つずつ」
嘉位
「ロングで100メーターは投げられるよ、ここにあるのが僕が使っていた軟式のグローブ、と軟式のボールね、好きなのを使ってね」
球道
「いいのーー!やったーー!」
嘉位
「まず、軽くキャッチボールしてみようか」
良い球筋だな。軟式指にかからない、こんなに軟式って小さく感じたかな、ま、いっか
30級くらい軽めのキャッチボールを終えてから
球道
「肩あったまってきたから、本気で投げて良い、嘉位兄ちゃん?」
ドッスン
嘉位
うわ、早、って軟式だよね、危ない、軟式で良かった、110後半は出てるんじゃないか
嘉位
「あぶないから、ワンバンでかえすね」
もう一球、早い
もう一球、早い
が・・・・コントロールがバラバラだ
先ほどから気になっていたのは、頭の位置と腕の振り上げるトップが微妙にずれている点だ
「球道君、ちょっといいかな、こっちにきてもらって」
香織はすごくうれしそうにみている。
テレビや新聞で当時みた彼がこんなにそばにいて、そして目の前で野球を、それも球道とやってくれている。
香織は嬉しくてたまらなかった。
「球道君、球すごく早いね、6年生だよね。でも、コントロール乱れるでしょう?違うかな?」
「嘉位兄ちゃんなんでわかるの!そう、球はもっと早くなるはずなんだけど、ボールが言うこと聞いてくれないというか、真っすぐ投げてるつもりがバラバラで」
「球道君、ちょっとふりかぶってから、リリースする直前あたりで、体止めてもらってもいいかな」
「こう、こんな感じ」
「そ、そうそう」
「それでね、この時から手を振り下ろすのだけど、この時の腕と肩の位置をもっと頭側によせて、トップは手をもっと伸ばしてみて」
「それを意識してから投げてみようか、もう1度意識して止めてみて、そうそう、それそれ、よし投げてみようか」
びゅん
早い、120km超えているな、それもど真ん中だし、真縦の回転になった、回転数もあがっているはず
球道
「すげーーー、嘉位兄ちゃんに一目みただけで、直してもらった」
香織
「よかったわね、球道、ずっとコントロール、コントロールって悩んでいたものね」
「香織、球道君すごいよ、僕も同じ時期、でここまで投げれたかな?」
千佳
「そろそろご帰宅なさるみたいです」
球道
「ええええええーーーいやだよ」
嘉位
「いつでもおいで、自由に使っていいからね、ここ。24時間使えるから、僕も帰国してからは、ずっとここでやっていたからね」
球道
「本当に!本当に!良いの」
嘉位
「あとその今使ったグローブも、そこのバットもあげるよ。」
球道
「えええええ、本当に!サイン入れてよ、嘉位兄ちゃん」
嘉位
「そのバットはね、金属だけど、初めてスタンドに入った記念のバットなんだ、大事にしてね」
球道の興奮は収まらなかったが、あまりの予想外のプレゼントに大はしゃぎ
そして一回投げただけで、悪いところを修正してくれて、ずっと悩んでいた課題を簡単に解決してくれたこと
さて玄関に戻ると、帰り支度がほぼ終わろうとしていた、送迎車が前に停まっている。
蓬田の母
「それでは、お言葉に甘えまして、よろしくお願いいたします」
山本の母
「こちらこそ、お預かり致します」
香織が車に乗り込もうとした際、
千佳が来て、
「香織様は、新学期が始まるまで、こちらで生活をして頂きます」
球道
「え、ねーちゃんだけずるい」
香織
「え、何も持ってきていないので…」
千佳:
「香織様、何一つ要りません、ご安心ください」
そして車はゆっくりとお屋敷をあとにした。
もうこんな時間なんだ、お風呂かな
(つづく)