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第一〇二話:未来への布石と彼の決意

山本嘉位やまもと かいの、蓬田香織よもぎだ かおりの実家である酒造メーカーへの訪問は、単なる見学以上の意味を持っていた。彼は、海外での経験で得た知識と情熱を活かし、香織の父親に海外市場への展開や新しい販路の開拓について具体的な提案を行った。それは、彼の御曹司としての能力と、そして、香織の家に対する真剣な関心を示すものだった。


香織の父親は、「かい」の熱心な話を聞いて、最初は驚いていたようだが、だんだんと彼の提案に興味を持ち始めた。山本財閥の御曹司が、自分たちの酒造りに、これほどまでに真剣に関心を持ってくれるなんて。それは、香織の父親にとって、思いもよらないことだった。


「山本様…うちのような小さな酒造メーカーに、そこまで…」と香織の父親は恐縮した様子だった。

「いいえ。蓬田さんの家の…この、こだわりの酒造り…本当に素晴らしいと思います。これは、世界に誇れる日本の文化です」と「かい」は真剣な表情で言った。「もしよかったら、僕も…何か、お手伝いさせていただけませんか?」


「かい」の言葉に、香織の父親は驚いた。山本財閥の御曹司が、自分たちの酒造メーカーを手伝う? それは、想像もできないことだった。


「あの…山本様には…うちのようなところで…」と香織の父親は戸惑った様子だった。

「大丈夫です。僕は…心から、日本の酒造りに興味があるんです。そして…蓬田さんの家の…酒造り…ぜひ、一緒に…」


「かい」は、香織の父親の目を真っ直ぐ見て、そう言った。その眼差しは、単なるビジネス上の提案だけではない。そこには、香織の父親に伝えたい、別の意味が込められているように香織には感じられた。


この訪問は、山本嘉位という御曹司が、蓬田香織という地味な女子高生の実家の酒造りを通して、彼の両親に、そして世間に対して、香織の家が、彼にとってどれほど重要な存在であるのかを示すための、彼の計画の一部なのだろう。そして、それは、彼と香織の未来を切り開くための、布石なのだろう。


香織は、彼の真剣な姿勢を見て、胸が熱くなるのを感じた。彼は、こんなにも困難な状況の中で、二人の未来のために、戦っている。


「かい」は、香織の父親と、今後の協力について、具体的な話を詰めていった。彼の知識と、御曹司としての影響力は、香織の父親を感心させた。


訪問の終わり、「かい」は香織の父親に深々と頭を下げた。


「本日は、お忙しいところ、ありがとうございました。そして…もし、私に何かお手伝いできることがあれば、いつでもお声がけください」


「かい」は、香織の手を取り、優しく握りしめた。そして、香織の父親に、何かを伝えたいような眼差しを向けた。


香織の父親は、「かい」の様子を見て、何かを察したようだった。彼は、香織の顔を見て、「かい」の顔を見た。そして、優しく微笑んだ。


「山本様…こちらこそ、本日は、ありがとうございました。もし、何かあれば…遠慮なく、ご連絡させていただきます」


香織の父親の言葉は、単なる社交辞令ではない。そこには、山本嘉位という御曹司に対する信頼と、そして、娘である香織のことへの、何かを察したような優しさが含まれているように香織には感じられた。


「かい」は、香織の父親に礼を言って、酒造場を後にした。香織は、彼の後ろ姿を見送ることしかできなかった。


その日の夜、「かい」からメッセージが届いた。千佳ちかではない、見慣れない番号から。


「蓬田さん。今日のことは、本当にありがとう。君の家の酒造りのこと、もっと詳しく知りたいんだ。あれが、僕たちの未来を切り開く鍵になるかもしれない」


彼のメッセージに、香織の心臓がドキドキと鳴る。鍵。未来。彼の言葉は、香織の期待をさらに高めた。


山本嘉位の計画は、始まったばかりだ。彼は、香織の実家の酒造りを足がかりに、彼の両親を説得し、婚約者のこと、そして、彼を取り巻く困難な状況を乗り越えようとしている。


それは、波乱に満ちているだろう。しかし、香織は、彼の愛を信じ、彼の計画を信じている。彼との未来のために、香織もまた、戦う覚悟を決めた。

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